『陽あたり良好!』考察:岸本かすみはいつ勇作に恋したのか?【ネタバレ有】

陽あたり良好!
記事内に広告が含まれています。

あだち充さんの名作『陽あたり良好!』の結末で、主人公「高杉勇作」の告白に対するヒロイン「岸本かすみ」が直接的な答えを返すシーンは描かれていません。
しかし、多くの読者が「かすみは受け入れた」と確信を持って本を閉じたはずです。

では、婚約者「克彦」のいる彼女の心は、一体いつ、どこで勇作へと傾いたのでしょうか?

オリジナルである「漫画単行本」の描写を改めて追っていき、彼女が自分の本心に気づいた決定的な瞬間を探っています。

ネタバレはバレ要素を含みますので、バレても大丈夫な方のみ下方スクロールをお願いいたします。

また、記事内の画像リンクとテキストリンクには広告リンクが含まれます。ご了承ください。

『陽あたり良好!』の結末

ここから物語の結末に関する重大なネタバレがあります。ご注意ください。

2巻の表紙です。
2巻表紙より

『陽あたり良好!』について。

作品名陽あたり良好!
作者あだち充
単行本1巻と最終巻発行日1980年11月20日、1981年8月2日
ジャンル少女、恋愛、ラブコメ
発行社小学館
レーベルフラワーコミックス
巻数全5巻(単行本)

『陽あたり良好!』はあだち充さんが1980年代初頭に描かれた少女漫画です。ジャンルは学園ものでありラブコメでもあります。

本稿では本作の主人公「高杉勇作」のことを、ヒロインの「岸本かすみ」はいつ、どのタイミングで好きだと自覚したのかを考察します。

後に続編や小説が発行されたようで(よく知りません)、そこで最終回の後日談が描かれているかもしれません。
しかし本稿では、あくまでもオリジナルの単行本からのみ、考察の対象とします。
作中の何巻の何ページでかすみは勇作のことを異性として好きになったのか、です。
当然ながら、これから書く巻数とページ数はオリジナル版の単行本に対応したものになります。
ご了承ください。

最終話(5巻185ページ)

単行本の最終話(5巻184~185ページ)で、勇作はかすみに次のような「告白」をします。

勇作「おれは一生懸命のヤツを見ると応援したくなる性格なんだ」
かすみ「たとえ どろぼうでもでしょ 根っからの応援団」
勇作「そう」「だから今は高杉勇作を応援する」
かすみ「え?」「なんに一生懸命なの? 高杉勇作は?」
勇作「岸本かすみ」

5巻184~185ページより

という場面です。「好き」とか「付き合ってください」とか、わかりやすい言葉はありませんけど、誰が見ても告白と受け取れる言葉になっているかと思います。

次の186ページが本作の最終ページです。186ページには「ピカッ」という稲光の擬音とコマの左下に少しの集中線、他は真っ白なコマと、その次、耳をふさいだままの姿勢で窓から雨が激しく降っている外を眺めている「相戸誠」だけが描かれているコマだけが描かれています。

つまり勇作の告白に対する、かすみの返事は描かれていないのです。
作者のあだち充さんは、かすみがどのような返答をしたのか、その解釈を読者に委ねたということになります。

しかし、私を含む多くの読者は、かすみは勇作の告白を受け入れた、と思っているはずです。
それはどうしてか?
理由は本作がそのように描かれているから、です。

それならば、かすみが勇作を好きだとわかるように描かれているコマがあるはず。それを探っていきましょう。

【1巻】衝撃の出会い

あくまでも私の主観ではありますが、3巻132ページ時点で、かすみは既に勇作のことを克彦より好きであることは確認できました。
では、克彦ではなく彼を好きと実感したのはいつか、という問いに対する答えは、「3巻132ページより前」である可能性が高まっています。

全裸の出会い

それではここで、そもそものところで2人の出会いはどのようなものだったかを、振り返ってみましょう。

1話は、かすみが高校に通うために、叔母が自宅で営む下宿「ひだまり」に引っ越すところから始まります。
住人とひと通り挨拶を済ませた夜、お風呂に入っていると、捨て猫「退助」を100円で買い取った勇作が、猫と一緒にかすみが身体を洗っていた風呂場に入ってきました。

勇作がさわやかに(ヤラシイところを一切見せず)「オス!」と言うものですから、かすみもつい「…オス」と答えてしまいます。
その後、風呂場を出て、身体の水分を拭き取り、私服に着替えた上で「きゃあ~っ」と大声を張り上げて、人を呼びました。

さらに言えば、風呂上がりに自室に戻り、パジャマに着替えている途中にも、退助がいなくなったと探している勇作に下着姿を見られています。

理想と野生

そんな初対面の同い年の男性に、裸を見られ、裸を見る、という思春期の女の子として最悪レベルでショッキングな出来事です。

かすみには克彦という婚約者がいます。かすみにとって彼は「どんなに遠く離れていても かすみはあなただけのものですからね――(略)あなた以上に魅力ある男性の存在は信じておりませんので……」(1巻25ページ)、「(欠点)それはあると思うよ ――けど今のわたしには見えない」(2巻7ページ)と思えるくらい、「理想」を象徴したかのような存在です。
そんな彼女の世界に、克彦さんとは対象的な、勇作という理性を越えた「野生」が乱入してきました。

勇作の「裏表のなさ」への直感

かすみにとって最悪な勇作との初対面は、同時に彼の「裏表のなさ」を感じ取れています。

ハダカ同士だったけど 不思議といやらしさは感じなかったな

3巻14ページより

こちらは3巻14ページからの抜粋です。
後々、初対面時のことを思い返せば、引用部のように、裸を見られても勇作からは下心は一切感じられなかった、これは1巻でも無自覚であっても感じていたはずです。
あのときも感じていたからこそ、その後も普通に接していたのでしょうし、引用のように回想もできたのでしょうし、好きにもなったのでしょうから。

【2巻93ページ】モノローグに漏れた本音

かすみにとって勇作は、物語が進むにつれ、「騒がしい同居人」から「目が離せない存在」へと変わっていきます。
そしてかすみの心が大きく揺れ動く瞬間が訪れます。それが単行本2巻の93ページです。

かすみの心が勇作をカッコいいと認めた瞬間。
2巻93ページより

あいつ… カッコいい……

2巻92~93ページより

引用部はかすみのモノローグ(心の声)です。

応援団という「他者を光らせる姿」への共鳴

この場面は、野球部の「関真人」の甲子園に行きたいという夢を応援すべく、勇作がテニス部からかすみと、真人の妹の「圭子」をマネージャーに、サッカー部から「有山高志」をキャチャーとして、それぞれスカウトします。
さらに、圭子が野球部に移ったことで「美樹本伸」も彼女について行き、彼がスポーツの天才であることが判明し、4番サードを務めることで、野球部に欠けていたと思われるポジションの要所を固めることに成功します。

勇作は応援団に戻って彼らを応援を、と思ったら団長が彼に応援のリーダーを託します。
応援団が野球部のグラウンドへ移動し、大声で「フレー フレー みょうじょう」と応援をリードし始めたその勇作の勇姿を見て、かすみの心に浮かんだの「カッコいい」という、驚くほどシンプルで純粋な一言でした。

「モノローグ」であることの重要性

あだち充作品において、キャラクターはしばしば照れ隠しや冗談で心にも無い言葉を発します。
それは主に台詞(吹き出し)で発せられています。
しかし、モノローグ(心の声)には嘘がありません。

かすみの「かっこいい」という言葉は、少女漫画においては、好意を認めた宣言と言っていいでしょう。
彼の「誰かのために一生懸命になれる本質」を認め、そこに強烈に惹かれている自分を認めてしまった瞬間なのです。

婚約者の影を追い越した瞬間

かすみには克彦という自他ともに認める「ヒーロー」がいます。
克彦に対する感情が、期待や理想に基づいた、ある種の「暗示」であるのに対し、勇作への「かっこいい」は、彼女の心から溢れ出した直感的反応です。

この2巻93ページの瞬間、かすみの心の中で勇作は、単なる「同居人の一人」から、克彦という高い壁を脅かす「一人の魅力的な男」へと昇格しました。
これが、彼女の「自己暗示」が崩壊し始める、恋の第一歩となったのです。

【2巻 2】潜伏期:無自覚な共鳴と必死の「ブレーキ」

2巻93ページで「かっこいい」と直感したものの、かすみはそれを「一時的な気の迷い」として処理しようとします。しかし、続くエピソードでは、彼女の理性が本能に追い越されていく様子が克明に描かれています。

誰よりも深い「理解」という名の絆(133ページ)

野球未経験であるが故に、間近に控えた地区大会に向けて猛特訓に耐える勇作。その過酷な様子に、圭子が「やめて お兄さん」と制止を懇願する中、かすみは毅然とこう言い放ちます。

大丈夫! あいつは簡単に引き受けるけど 簡単には逃げ出さないよ
大会までにはなんとかするよ きっと――

2巻133ページより

この言葉は、単なる同居人としての観察を超えた、勇作の本質(一生懸命さ)への全幅の信頼を表しています。

かすみの言葉に対して圭子が「どうして―― そんなに高杉くんのことがわかるの?」と驚いたのは、かすみがの彼への「理解者としての圧倒的な空気」が、もはや隠しきれないほど密なものになっていたからです。

誇らしさと、必死の「比較」(149~150ページ)

みるみる上達する勇作に対し、圭子が「ステキね」と称賛を送ったとき、かすみは心の中でこう呟きます。

なぜだろう――― あいつがほめられると ……うれしい

2巻149~150ページより

自分のことのように誇らしい。これは対象を「自分の一部」あるいは「自分の大切な存在」として受け入れている心理状態です。
しかし、直後に彼女はわざわざ声に出してこう付け加えます。

でも克彦さんほどではないよ

2巻150ページより

ここで「克彦」の名をわざわざ出したことこそが、彼女の焦りの表れです。
自分の内側から湧き上がる「勇作が誇らしい」「勇作が好き」という感情。それを食い止めるために、彼女は「理想の男性・克彦」という防衛線を必死に張っているのです。

この段階のかすみは、既に心では勇作を好きになっていますが、理性がそれを認めることを拒んでいす。
この「自覚なき恋の潜伏期」があるからこそ、後述する3巻で克彦からキスという「身体的接触」を受けた際、積み上げてきた自己暗示が耐えきれず、決定的な「違和感」として爆発することになるのです。

【3巻】「わかんない」の涙:理性を超えた魂の選択

2巻で芽生えた感情を、懸命な自己暗示で抑え込んできたかすみ。
しかし、単行本3巻の123ページから132ページにかけて、その均衡はついに崩壊します。
ここでは、彼女の「頭(理性)」と「心(本能)」が完全に決別するプロセスが描かれています。

キス直前の「過剰な弁明」(123ページ)

克彦にキスをされる直前、かすみは克彦に次のようなセリフを吐きます。

そういえばやたらと高杉くんのことを気にしてるようだけど なんでもないですからね
手紙にかいたでしょ かすみが好きなのはずっと克彦さん一人だけなんだから

3巻123ページより

まるで自分に言い聞かせるように言葉を重ねます。

本当に心から克彦だけを思っているなら、わざわざ別の男(勇作)の名前を出して否定する必要はありません。
この過剰な弁明こそが、彼女の心がいかに勇作に占拠されていたかの裏返しです。
彼女は言葉によって、自分自身の揺らぎを無理やり鎮めようとしていた、と受け取ることができます。

「肌感覚」による嘘の拒絶(124ページ)

その直後、克彦に唇にキスをされました。
かすみは頭では「嬉しいはずのこと」と理解していても、彼女の身体はその接触に動揺し、涙を流してしまいます。

人は言葉で自分を騙せても、肌が感じる違和感までは誤魔化せません。
克彦という「理想」と重なった瞬間、彼女の芯の部分が「これは違う」と叫んでしまった。
長年信じてきた自分の気持ちが、今は「思い込み」になっていることを突きつけられた、残酷なまでの真実の瞬間です。

記事冒頭の問い「かすみはいつ、勇作を自覚的好きになったのか」の答えは、まさにこのときと言えます。

「わかんない」という名の心の宣言(132ページ)

動揺した彼女が向かったのは勇作のところでした。
いえ、一つ屋根の下に暮らしているので、偶然に庭に彼がいただけなのですが、引き寄せられるように彼の元へと向かいます。そして……

勇作「なぜ泣くの」
かすみ「わかんない」「ゴメンね」
勇作「なぜ あやまるの」
かすみ「わかんない…」

3巻132ページより

画像のように勇作の左肩に額を預け(抱きつくまでいかない、絶妙な距離感が彼女の葛藤を物語っています)、彼女は「わかんない」と繰り返します。

この「わかんない」は、理由が不明なのではありません。
「あなたのことが好きだという答えに、今の私はまだ責任を持てない」という、行き場のない苦しみです。
克彦への罪悪感、親や周囲から期待や彼らへの義理、これまでの自分自身の言葉。それらに決着をつけていないままでは、目の前の勇作を「好きだ」とは言えません。
それは克彦だけでなく、勇作を、そして自分自身をも裏切る行為だからです。
しかし、勇作の肩の温もりを選んで泣いているという事実そのものが、彼女の「心」が出した最終的な答えでした。

言わない誠実さ

勇作の「なぜ 泣くの? なぜ あやまるの?」の質問は、このときのかすみには優しくもあり残酷でもあります。
その質問に対して彼女が明確に答えることができないことを、彼はわかっているからです。

かすみはこの時点で勇作を好きでしょう。
でもそれを彼に伝えてしまえば「裏切り」が確定してしまいます。

好きなのに「あなたのことが好きだから」と言えないもどかしさが、さらなる涙となって勇作の肩を濡らしたのでしょう。
この沈黙のやり取りこそが、このシーンの「純度」を高めていると言えます。

まとめ

まとめます。

物語のラストシーン、勇作が放った「岸本かすみに一生懸命」という告白。
この言葉は、単なる愛の言葉ではなく、彼が物語を通じて貫いてきた「誰かを応援する」という姿勢の集大成でした。
勇作はこれまで、元応援団長の坂本や関真人、野球部と、常に誰かのために汗を流してきました。その「一生懸命さ」にかすみは惹かれ「かっこいい」と自覚したのです。
そんな勇作が最後に「一生懸命」の対象に選んだのは、他ならぬ自分自身の恋、そしてかすみの幸せでした。

かすみがいつ勇作のことを好きだと自覚したか。
この答えは、皮肉なことに、それまで恋い焦がれていた相手「克彦」から唇にキスをされた瞬間です。
中学生時代に婚約さえするほどに、彼女にとって理想的な相手だったはずの克彦にキスをされたときに肌感覚で、もはや自分の心は彼にはなく勇作にあるのだ、と感じ取ってしまいました。

本文に書いたことは私の個人的な意見や解釈でしかありません。決して情報を鵜呑みになさらず、参考程度に抑えて受け取ってくださると幸いです。

ということで、今回はここまでになります。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

今回の考察の場面を原作で読んでみたいあなたへ

今回の考察はいかがだったでしょうか?
この記事に掲載されているエピソードを漫画で読んでみたい!
そんなあなたへ、オススメできるものがあります。
※以降のリンクは広告です。

かすみが克彦にキスされたシーン、勇作への好意を自覚したと私が判断した場面は3巻に収録されています。

Kindle Unlimitedもオススメ!

今回ご紹介した他にも、世の中にはまだ見ぬ素晴らしい恋愛漫画がたくさんあります。そんな新しい作品との出会いを広げてくれるのが、Amazonの読み放題サービス『Kindle Unlimited』です。

Kindle Unlimitedの特徴

  • 500万冊の電子書籍が読み放題です。漫画はもちろん、雑誌も、ビジネス書も、実用書も対象です。
  • 月額料金が固定で980円(税込)と低価格です。無制限に読み放題で、1,000円の本を1冊読むだけで元が取れてしまいます。
  • 初回登録で30日間の無料お試しができます。
  • Kindleの専用端末だけでなく、iPhoneなどスマホやタブレット、パソコンでも利用できます。ダウンロードした本をオフラインで読むことも!

Kindle Unlimitedの30日間無料お試しのご登録はこちらからどうぞ。
>> Kindle Unlimited

コメント