『めぞん一刻』vs『ひらやすみ』:人付き合いの形を決めるのは家の構造か人か?

ひらやすみ
記事内に広告が含まれています。

昭和の名作『めぞん一刻』と令和の話題作『ひらやすみ』。
以前、当サイトでは両作品における「共同体」の変遷を考察しましたが、その人間関係の違いを決定づけているのは、実は舞台となる「家の構造」ではなかろうか、ということを本稿では考察しています。

一刻館という、階段で上下階をつなぎ、壁のみならず床・天井から住人が侵入してくる「立体的な関係」。 阿佐ヶ谷の平屋という、ドアのみで個のプライバシーを守り、縁側が外と緩やかにつながる「水平の関係」。

五代裕作の私生活が賑やかすぎるほどに浸食された理由や、ヒロトとなつみの間に流れる穏やかな距離感。 今回は住居の構造の対比から、昭和と令和の「心の境界線」がどのように描かれているのか、その一端を読み解いてみます。

ネタバレは緩いバレ要素はありますので、バレても大丈夫な方のみ下方スクロールをお願いいたします。

また、記事内の画像リンクとテキストリンクには広告リンクが含まれます。ご了承ください。

めぞん一刻:共有される気配と「立体的」な人間関係

『めぞん一刻』について。

作品名めぞん一刻
作者高橋留美子
単行本1巻と最終巻発行日1982年5月1日、1987年7月1日
ジャンル青年、恋愛、ラブコメ
発行社小学館
レーベルビッグコミックス
巻数全15巻(単行本)

『めぞん一刻』は高橋留美子さんによる、1980年から1987年にかけて描かれたラブコメ作品です。昭和の時代の作品ですけど、現代でも色褪せない、まさに金字塔です。

※なお、以降ご紹介する『めぞん一刻』の巻数・ページ数は、単行本オリジナル版に対応したものになります。

一刻館の間取り

『めぞん一刻』の舞台となる「一刻館」は、アニメでは大正時代に建てられたと言及されているくらい、1980年代当時からしても年代物の建築物です。
作中、主に使用されているのは1階と2階のみですが、厳密には3階建てで、3階部分は屋根裏で、「時計台」の機械室があります。

住居部分は1階と2階にあり、1階には管理人室と1号室、2号室、3号室、2階に続く階段(とトイレ?)。
2階は時計台へ続く階段と、4号室、5号室、6号室、トイレ、それと1階に続く階段があります。
1・2階ともに、それぞれ共用通路に出るドアが1つずつあり、通路には共用の流し台があります。
各部屋には簡単な台所がありますが、トイレは共同、風呂なし、洗濯機スペースもなし。

1~6号室の各部屋はそれぞれ壁一枚で分けられていて(押入れあり)、物音が隣室や上下の部屋に届いている様子も何度か描写されているので、壁は薄い上に防音対策は一切していないのでしょう。

管理人室は「音無響子」、1号室には「一の瀬一家(花枝、夫、賢太郎)」、2号室は単行本8巻から「二階堂望」、3号室は空室(アニメ版では一時期住人がいたようです)、4号室は「四谷」さん、5号室は「五代裕作」、6号室は「六本木朱美」がそれぞれ住んでいます。
管理人室の真上は(おそらく)階段、1号室の真上は4号室、2号室の真上は5号室、3号室の真上は6号室です。

筒抜けの生活感

前述のとおり一刻館は古い建物のため、防音対策を施されていないものと思われます。

それを証拠に、玄関ドア開閉によって管理人さんが誰かが建物に出入りしたことを察して、玄関に向かう描写は作中何度か描かれています。
例えば、3巻「PART♥2 帰らざる彼」39ページでは、正月に実家に帰省していた五代くんが一刻館に帰ったとき、「ガタン」という玄関ドアの音が管理人室に届き、部屋にした朱美さんが「あれ? 五代くんじゃないの?」と言う場面があります。

また、各部屋でも、隣の物音がうるさいと苦情を言う場面が何度かありますすし、2階で宴会をしている会話が管理人室まで届く描写もありました。
例えば3巻「PART♥4 響子と惣一郎」74ページでは、管理人室でコーヒーを飲もうとした響子さんに、天井(2階)から「響子お~~!?」という大声が聞こえてくる場面があります。

また、各部屋のドア越しからも音は普通に漏れているようです。
例えば1巻「PART5 春遠からじ!?」では、管理人室で響子さんと一の瀬さんが話している、その会話内容を、部屋のドア越しに五代くんが耳をそばだてて聞いている場面があります(90~94ページ)。

四谷さんに5号室の壁を突破された場面です。
1巻「PART♥1 隣はなにを…!?」9ページより

とりわけ五代くんの部屋は、四谷さんや二階堂くんが壁に穴を空けたこともあって、毎日のように他の住人が訪れることから、彼のプライバシーはほぼ皆無と言えるでしょう。

敷地すべてが「居間」

5号室にかぎらず、一刻館の住人、とりわけ一の瀬・四谷・朱美の3人は、アパートの敷地のどこでも宴会会場にしてしまいます。
玄関先でも、玄関をあがった1階通路でも、2階通路でも、管理人室でも関係ありません。

7巻「PART♥1 別れの18番ホーム」では、五代くんの祖母「ゆかり」さんを見送る流れで、駅のホームで宴会もしていましたから、一刻館の枠組みさえ彼らには無意味かもしれませんが。

ひらやすみ:「平面的」にゾーニングされた尊重の構造

『ひらやすみ』について。

作品名ひらやすみ
作者真造圭伍
単行本1巻初版発行日2021年9月15日
ジャンル日常系、恋愛、ヒューマンドラマ
発行社小学館
レーベルビッグコミックス
巻数既刊9巻(2025年12月時点)

『ひらやすみ』は真造圭伍さんによる日常系漫画。恋愛要素も多分に含まれます。
2025年にはNHKでドラマ化され、今後のアニメ化も決定しています。

舞台となる平屋には、フリーターの「生田ヒロト」と、美大に通うために上京した彼の従姉妹「小林なつみ」が二人暮らしをしています。
家は元々ヒロトと仲良しだった老女「和田はなえ」のものでしたが、彼女が急死し、遺書にヒロトに譲ると書かれていたことから、彼の持ち家となりました。

平屋の間取り

作中、二人の住む平屋の、具体的な間取りの紹介はなかったと思います。

なので、以降書く家の内部に関することは、あくまでも私が本作を読んでの想像でしかありませんので、間取りを間違えている可能性は十分あります。ご注意ください。

言わずもがな、平屋とは1階建ての住宅のことを言います。
「台所(ダイニングキッチン)」と、二人の「部屋(和室)」がそれぞれあることは確認できます。
なつみとヒロトの部屋は隣り合わせではあるものの、押入れと壁で隔てられていると思われ、廊下に出ないと部屋と部屋の行き来はできない造りのようです。
二人の部屋は庭と接しています。しかし「縁側」があるのはヒロトの部屋のみで、なつみの部屋には縁側がありません。
おそらくダイニングキッチンとヒロトの部屋はガラス戸だけで隔てられていて、開けっ放しにされている様子がまま見られます。
一刻館と違ってバスルームがあり、トイレもあります。ユニットバスではなくセパレートです。

ドアがドアとして機能

『ひらやすみ』では、『めぞん一刻』と異なり、基本的にはドアがドアとして機能しています。当たり前なのですが。

3日目「ジャケットとライト」1巻77ページから、なつみの部屋は平時、引き戸が閉じられており、戸には「かってにあけるな」の張り紙があります。
これは女性ということもあるでしょうけど、彼女がプロの漫画家を目指していることを、ヒロトにも誰にも明かしていなかったから、ということもあります。
漫画家を目指していることは、その後バレたりバラしたりして皆が知るところとなります。

ヒロトは、一度ゴキブリが出たときは勝手に戸を開けてしまいました(3日目「ジャケットとライト」1巻92ページ)が、その他はノックをして許可をてから戸を開けているようです(25日目「U.F.O.埋まってたりして」3巻143ページ)し、食事などの声掛けも戸越しにしていて、彼女のプライバシーを尊重しています。

なつみが従姉妹でも、居住スペースを貸し与えている側の立場でも(だからこそかもしれませんが)、ヒロトは彼女の意思を尊重して、ノックをするという手順を採っています。

一刻館の3名の住人と異なり、ヒロトたちがその境界を侵さないのは、家の構造の問題ではなく、彼らが「他者を敬う」性格の持ち主だから、という意味合いが強そうです。

縁側という「緩衝地帯」

平屋には「縁側」が存在する点も特徴的です。
『めぞん一刻』の一刻館にもあるのですが、管理人室に唯一ある構造のために、作中多くは登場しません。

『ひらやすみ』においてはしばしば縁側が登場し、この空間は家の「外側」でも「内側」ではない、住人と外部の人間が、互いの領域を侵さずに接点を持つための「クッション」として機能しているようです。

また、縁側がヒロトの部屋だけにあり、なつみの部屋には無いことも興味深い点です。
なつみの部屋に縁側はなく、廊下へ通じる「ドア」、庭へ直接つながる「窓」が外との接点で、縁側のように外と内を緩くつなげるクッションがありません。
つまり、プロの漫画家を目指すという孤独な作業、あるいは20歳前後の若い女性としてプライバシーを完結させる場所となっています。
この閉じられる場所があるからこそ、なつみ(とヒロトもかもしれませんが)は安心して共同生活を送ることができている、と言えるかもしれません。

対して、ヒロトの部屋には縁側があり、縁側があることで彼の部屋は庭(外の世界)に対して大きく開かれています。それは誰に対してもオープンな彼の人間性にも通じていそうです。
縁側があることで、彼の親友「野口ヒデキ」がふらっと立ち寄ったときや、彼の意中の人であり不動産屋として平屋の担当者でもある「立花よもぎ」が訪れたときに、家の中という密室に入らずとも、ヒロトたちと接することができる場所になっています。

当然ながら戸を閉じれば、ヒロトの部屋も外部との接触を避けることも容易ですから、「閉じる自由」と「開く自由」が並立していることで、低ストレスな関係を保てるでしょう。

性格と構造の「相互作用」はあるか

本稿で取り上げている両作品では、登場人物の相手を思いやるマナーそのものが異なっているようです。
そういう住人の「性格」に加えて、建物の「構造」がどのようにお互いを補強し合い、あの独特な空気感を生み出しているのか、そこに何か関係があるのかを考えてみましょう。

めぞん一刻:構造を突破するパワー

一刻館の住人たちを見ていると、彼らにとって建物の構造は「守るべきルール」ではなく、「どう活用して相手の懐に飛び込むか」という攻略対象のように見えます。

遠慮なんて概念がない一の瀬さんや四谷さんが『ひらやすみ』の平屋に来たら、縁側やドアなど無関係に踏み込んでくるでしょう。
平屋に限らず、現代のオートロックつきの高層マンションであろうと、彼らは突破して「他人の人生に土足で踏み込む」ことをしてきそうで、彼らの前では物理的な境界線は無意味です。
一刻館の敷地全体が彼らのリビングとさえ言えるでしょう。

一方で、一刻館の「壁の薄さ」や簡素なドアといった大正・昭和時代の脆い構造が、彼らの図々しさを助長していた側面も否定できません。
簡単に穴を開けられる壁だからこそ、四谷さんの覗き行為などの行為が、日常のコミュニケーションツールに転化されました。

ひらやすみ:構造を尊重するバランス感覚

なつみが自室から直接庭に出た様子です。
25日目「U.F.O.埋まってたりして」3巻137ページより

対照的に『ひらやすみ』のヒロトやなつみは、建物の構造が示す「境界線」を、お互いの平穏を守るための境界線として扱っています。

なつみの部屋のドアがドアとして機能しているのは、材質が頑丈だからではありません。
ヒロトが「ドアの向こう側には、踏み込んではいけない相手の人生がある」と理解しているからであって、彼らの倫理観が建物の境界線を境界線として機能させているのです。

しかし、例え穏やかなヒロトであっても一刻館に入居すれば、五代くんのように四方八方からプライバシーを侵食され、平屋のような平穏な暮らしはできないでしょうから、他人ともゆるくつながろうとせず、退去など自分を守るための拒否行動を採ったかもしれません。

よって、『ひらやすみ』における登場人物同士の心地よい距離感は、建物の構造(ドアや縁側)のためではなく、彼の穏やかな人間性やバランス感覚が、平屋を「心地よい場所」として完成させていると言えます。

建物が人物の性格を後押しする

建物が人間を変えるほど効力を持っているもの訳ではないでしょう。
四谷さんのような「突破力のある人」がいれば、どんな家も一刻館になり得、ヒロトのような「尊重する人」がいれば、どんな家も『ひらやすみ』の平屋になり得ますから。

だとしても、一刻館の造りは一の瀬さんたちの「おせっかい」な性格を押し出しやすく、平屋の造りは緩やかに見守る「優しさ」を保ちやすくなっている、ということは言えそうです。
どんな風に他人と付き合いたいかという住人の性格が、家の構造とぴったり合ったときに、それぞれの作品らしい「居心地のよさ」が生まれているのだと思います。

まとめ

まとめます。

建物の「壁の穴」も「縁側」も、人付き合いの舞台である。
構造を無効化するような、高橋留美子さんのペンから生まれた四谷さんたち昭和の人たちのパワーと、構造を尊重しながら、ドアの向こう側の時間を大切にする、真造圭伍さんのペンから生まれる令和の安心感。
どちらが良いかではなく、私たちはその時代時代で、自分たちの性格に合った「心の距離感」を、それぞれの家の形の中に見つけているのかもしれません。

本文に書いたことは私の個人的な意見や解釈でしかありません。決して情報を鵜呑みになさらず、参考程度に抑えて受け取ってくださると幸いです。

ということで、今回はここまでになります。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

今回の考察の場面を原作で読んでみたいあなたへ

今回の考察はいかがだったでしょうか?
この記事に掲載されているエピソードを漫画で読んでみたい!
そんなあなたへ、オススメできるものがあります。
※以降のリンクは広告です。

作中、一刻館の壁や天井が破壊されているのは、単行本8巻です。

なつみが「かってにあけるな」と張り紙を戸に貼った場面は1巻です。

Kindle Unlimitedもオススメ!

今回ご紹介した他にも、世の中にはまだ見ぬ素晴らしい恋愛漫画がたくさんあります。そんな新しい作品との出会いを広げてくれるのが、Amazonの読み放題サービス『Kindle Unlimited』です。

Kindle Unlimitedの特徴

  • 500万冊の電子書籍が読み放題です。漫画はもちろん、雑誌も、ビジネス書も、実用書も対象です。
  • 月額料金が固定で980円(税込)と低価格です。無制限に読み放題で、1,000円の本を1冊読むだけで元が取れてしまいます。
  • 初回登録で30日間の無料お試しができます。
  • Kindleの専用端末だけでなく、iPhoneなどスマホやタブレット、パソコンでも利用できます。ダウンロードした本をオフラインで読むことも!

Kindle Unlimitedの30日間無料お試しのご登録はこちらからどうぞ。
>> Kindle Unlimited

コメント