『めぞん一刻』のラブストーリーを成功させた響子の「鈍感力」のシステム

めぞん一刻
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めぞん一刻』の恋愛が成功した要因は、「音無響子」の「呑気さ」や「鈍さ」、いわば「鈍感力」が一つ、あったのではないかと私は考えています。

作中において実際に呑気だったり鈍かったりするエピソードやセリフを取り上げるとともに、この鈍感力こそが、「三鷹瞬」との関係を先延ばしにし、「五代裕作」の成長に必要な「猶予期間」を与え、響子さん自身の心の整理を促したかもしれないことを本稿では考察します。

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『めぞん一刻』:音無響子の性格

作品名めぞん一刻
作者高橋留美子
単行本1巻と最終巻発行日1982年5月1日、1987年7月1日
ジャンル青年、恋愛、ラブコメ
発行社小学館
レーベルビッグコミックス
巻数全15巻(単行本)

『めぞん一刻』は高橋留美子さんによる、昭和の後期に描かれたラブコメ作品です。現代からすればもはやクラシックと呼べるレベルの古い物語ですけど、今なお魅力を発し続けるコンテンツです。

冒頭でも書きましたように、本稿では音無響子の鈍感な性格が五代裕作との恋愛を成就させたのではないか、という点を考察します。

性格を表すセリフ一覧

まずは響子さんの性格に対する、本人を含む登場人物の評をピックアップしてみましょう。

※以降書きます巻数とページ数は、オリジナル版の単行本に対応したものです。ご留意ください。

  • 1巻「PART♥10 金網は越えられない!!」199ページに「この人も奥さんくらい融通がきけばいいんだけどね」との「一の瀬花枝」のセリフ。つまり響子さんは融通が利かないと言っている。
  • 2巻「PART6 桃色電話」120ページに、自らのセリフですが「どーせわたしは意固地な後家です」のセリフあり。周りからそう言われたことがある、他者からの意見を自覚していると受け取れる。
  • 2巻「PART♥8 キャンパス・ドール」158ページ、「管理人さんて熱中するタイプなんだな。いちばんのってんじゃないか」との五代くんのセリフ。人形劇を急遽頼まれて、最初は断っていたけど、引き受けた後はノリノリだったこと。
  • 2巻「PART♥10 影を背負いて」199ページ、「一途なのよねー」との「七尾こずえ」のセリフ、続けて「あの奥ゆかしい響子さんが、そんな思いきったことするなんて…………」の五代くんのセリフ。いずれも亡夫・惣一郎さんへの思い出話を聞いてのセリフ。
  • 3巻「PART♥7 納得しました」127ページ、「素直ないい子だったのになー」の今日この父のセリフ。子供の頃のアルバム写真を眺めながら(=今は素直ないい子ではない)。
  • 3巻「PART♥9 混乱ダブルス」184ページ、「プロポーズだったのに………」の「三鷹瞬」のセリフ、同ページ同コマに「おれの気持ち全然わかってくれてないな…………」の五代くんの心の声。
  • 4巻「PART♥2 SOPPO」40ページ、「あんたがチクチクいじめるから、ネをあげたんじゃないの?」「ウソだよ~、あんた雰囲気で人を追いこむんだから」と一の瀬さんのセリフ、46ページ「だいたい、あんたわがままなんだよね」「なーんにもやらせないで、男を縛ろうなんちゅー根性が気にくわん」「考えずにやってるとこがこわい」と「六本木朱美」のセリフ。
  • 4巻「PART♥7 事件」137ページ、「罪なひとです たまにやさしい言葉をかけてくれて、 しかもそれが本音らしかったりするから、 ずっと淡い期待を抱いてたんです―――」と五代くんのセリフ。←重要なセリフと私は思います。
  • 5巻「PART♥5 見るものか」117ページ、「恥ずかしがって出てこないのよ――、 あのぶりっ子」と朱美。レオタードに着替えた回。
  • 6巻「PART♥8 夏色の風と」146ページ、「だからさー、管理人さんて、いっぺんやきもちやくと長引くからさ… 頭冷えるまで逃げてんのよ!」と朱美。五代くんが自分が原因で機嫌の悪い響子から逃げるように北海道旅行をしている回。
  • 7巻「PART♥7 愛の骨格」151ページ、「(三鷹「一時の感情に流されないでください」の言葉に)う~~ん、わかんない」と響子自身。響子の性格のセリフではないが、三鷹と五代の間を揺れ動く感じも、この記事の鍵になるかなと。
  • 7巻「PART♥8 雪に二文字」178ページ、「あたしって……… いいかげんな女なのかしら。もしかすると……もしかしなくても…… スキンシップに弱いのよね…………」「それじゃ五代さんとの時も…… それでくらくらっと………」「そんなことないわ。でも…… 三鷹さんの時も…くらくらっと…したみたい……」と響子自身。こちらも選べなかった様子が、この記事には重要なセリフ。
  • 7巻「PART♥9 愛のリハビリテーション」201ページ、「困ったもんだなー、音無さんのヒステリーにも いつもどのくらいで治るの?」と三鷹、「そうか…おかしいと思ったんだ。そう簡単に機嫌が治るわけないもんねー」と五代、「あのひとしつこいから…」と二人。
  • 8巻「PART♥7 仲よき事は」143ページ、「管理人さん案外人を見る目がないねー」と一の瀬さん。「しょーがないわよ、管理人さんの前じゃ ブリっ子してんだから」と朱美。「二階堂望」が新たに加わったときの彼の評価を響子さんが見誤っている。
  • 9巻「PART♥1 青田枯れ」16ページ、「あんたトロイからさー、それっぽいこと言われてんのに気づいてないんじゃないの?」と朱美。五代くんが実家の定食屋を手に入れるために帰省したのを、朱美たちは響子との結婚の許可をもらいに言ったと勘違いして、響子もその気になりかけている。
  • 9巻「PART♥7 パジャマとネグリジェ」136ページ、「そーそー、不沈艦の管理人さんくらべたらずーっと素直で可愛い」と一の瀬さん。彼らは、五代くんに響子さんではなく、女子高校生の「八神いぶき」と付き合ってしまえばいいと言っている。
  • 10巻「PART♥2 深夜の面接」39ページ、「あの管理人さんが自分から泊まれって言い出したってことは………もしかすると…」と五代くん。八神が一刻館5号室に籠城しているため、代わりに五代を泊めると響子さんが言い、八神にプレッシャーをかけた。
  • 10巻「PART♥6 大安仏滅」123ページ、「しっかしまー、管理人さんも相当ちゃらんぽらんな性格してるねー」と一の瀬さん。三鷹さんのアプローチに圧されて、五代が一人前になるのを待っているのかとの問いに、そんなことありませんわ、などと答えてしまった様子を盗み聞きしている。
  • 10巻「PART♥10 犬が来た」209ページ、「冗談じゃない。音無さんのことだ……これ以上見合い話が進んだら、きっぱり身を引いてしまうだろう」と三鷹さん。
  • 11巻「PART♥11 弱虫」214~215ページ、「ほんっとに 素直じゃないのよねー 好きなら好きって素直に言いなさいよ。好きないふりして好かれようなんて、ムシのいい話だわ」「いっつもそう。それともなに? 人に知られると都合悪いわけ?」「嫌いなんだ。ハッキリしないのって」と八神。
  • 12巻「PART♥12 縁困関係」224ページ、「のほほんとしてるねー、管理人さん」と一の瀬さん。続いて「自分の立場わかってるんでしょーか」と「四谷」さん。
  • 14巻「PART♥6 出たとこ勝負」114ページ、「だいたいねー、あんたみたいに未亡人で若くもなくて、学歴も技術もないわがままな子をもらってくれる男なんて、これから先鐘や太鼓で捜したって、金輪際未来永劫現れないかもしれないのよっ!」と母「律子」。
  • 14巻「PART♥8 やましい関係」156ページ、「かわいくないわねー」と朱美さん、それに対して「こーゆー性格なんです」と響子さん。五代くんとの関係がこじれている内に、「七尾こずえ」と関係が進展したりしてという朱美さんに、そうなったらそれまでだと響子さんが答えたことに対して。
  • 15巻「PART♥6 許さん」123ページ、「忘れていた… 響子さんは 鈍いんだ」と五代くん。響子さんの味噌汁が食べたい(=毎日響子さんの作った料理を食べたい=一緒に住みたい=結婚)」と五代くんが遠回しにプロポーズをしたのだが、全く伝わらずに、響子さんは彼に、翌朝の犬用に残しておいた味噌汁を出した。

以上です。

鈍感力1:三鷹へのタイムリミット

この響子さんの鈍感力に関して、3つ大きな機能があるように思います。
一つは三鷹さんへの「タイムリミット」の留保です。

単行本1巻から登場して、既に主婦を対象にしたテニス教室のコーチとして働いていた彼。
物語の終盤13巻55ページには31歳とあります(同ページによれば、響子さんは秋には27歳だそう。つまり26歳)。4歳の年の差があります。
旧華族(10巻118ページ)の「九条明日菜」と結婚をできたほどですから、経済力も家柄も学歴も申し分ない(4巻20ページ)ですし、ハンサム(1巻200ページ)でもあります。

五代くんは、三鷹さんの初登場当時、一浪の末の大学1年生で、常に貧乏生活、就職活動に失敗しフリーター生活をしていました。実家はおそらく新潟で定食屋をしていますので、家柄も三鷹家に比べれべればよいとは言えません。

等々条件を並べますと、三鷹さんが響子さんとの結婚を勝ち取る確率は高かったと思います。
ところが本作はそうはなりませんでした。

その理由を考えますと、響子さんの性格がそれを阻止し続けていた、ということも一つありそうです。
上記リストのうち3巻にある「プロポーズだったのに………」「おれの気持ち全然わかってくれてないな…………」が示すように、響子さんの「鈍感力」は、三鷹さんの決定的なプロポーズを理解しない、または受け止めない形で作用して、関係の進展を先延ばしにしています。

また、4巻の朱美さんと一の瀬さんのセリフにある「あんたがチクチクいじめるから、ネをあげたんじゃないの?」「だいたい、あんたわがままなんだよね」のように、意識的・無意識的に「意固地」な性格のため、三鷹さんも五代くんも彼女の心の奥に容易に入り込めなかった、ということもあるでしょう。

さらに、9巻の朱美さんのいう「トロい」性格でもあることで、なかなか決断をしなかった・できなかったおかげで、三鷹さんが九条明日菜と出会ったりキスをしたりする時間的な余裕と言いますか「隙」が生まれたこともありそうです。

鈍感力2:五代の育成

響子さんの鈍感力がもたらした効果の2つ目は「五代くんの成長と期待」の時間的猶予です。

五代くんは、初登場時浪人生でした。大学に入学し、就職が決まったもののその直後に内定の決まっていた会社が倒産、フリーターになったときに保父(現・保育士)という天職を見つけ、保父試験に挑み、合格&就職をして、ほぼ同時に響子さんとの恋も実らせました。

響子さんが三鷹さんとの結婚の決断を贈らせていた時間は、そのまま五代くんが浪人から保父へと到達するための成長期間となっています。

「罪な女ひとです たまにやさしい言葉をかけてくれて、 しかもそれが本音らしかったりするから、 ずっと淡い期待を抱いてたんです―――」と、4巻で五代くん本人のセリフにあるように、鈍感力のために、常に優しく、五代くんを甘やかしていたら五代くんは成長しなかったでしょうし、厳しすぎても「こずえ」ちゃん等他の女性との道、保父ではない道を選んでいたかもしれません。
適度な距離が保たれていたことで、五代くんの成長が促されたこともあろうかと思います。

その鈍感力によって、五代くんとの絶妙な距離感が描かれているエピソードが12巻「PART♥3 シャボン玉翔んだ」52~53ページにあります。

五「資格とって保父になっても、収入は少ないかもしれないけど…あの……」
響「いいじゃありませんか 好きなら気になりませんわよ、そんなこと」
五「え…(響子さん……)」
響「好きなんでしょ? 今の仕事」
五「は… は、はい、そりゃもう」
響「ねぇっ だったら充分にやっていけますわ、一人なんですものっ」
五「…行ってきます」
響「はい、行ってらっしゃい」

12巻「PART♥3 シャボン玉翔んだ」52~53ページより

引用部は当然、五代くんとしては保父になって、結婚をしたら、お金の面であなたに苦労をかけてしまう、ということを言いたいのです。遠回しに告白をしているようなものです。
がしかし、響子さんはそのようには受け取っていません。独身なんだからお金のことより好きなことを突き進んで、とエールを送っています。

これですね。彼女は五代くんの遠回しの告白に気づいていないのか。または、気づいていながら意図して気づいていないフリをしているのか。
後者だと思いますけど、前者を完全に否定できるものでもありません。
この距離感が、彼の自分への興味を留まらせていますし、結果的にそれが彼の保父への道をすすめさせる効果にもなっている、と。

この鈍さは、上記リストの最後、15巻での味噌汁のシーンでも発揮されていますね。
五代くんが遠回しにプロポーズした場面での、響子さんの決定的な「鈍さ」が、まさに本作における彼と彼女の関係性の集大成とも言えそうです。

五代くんも学べよという話ですが、最後の最後は直接的で明確なプロポーズしかない状況に彼を追い込んでいて、曖昧な関係から脱却できました。

鈍感力3:惣一郎への執着

上記リストからは響子さんの「一途さ」も見て取れます。

2巻のこずえちゃんのセリフ「一途なのよねー」からわかるように、響子さんの亡夫への強い愛情を示しており、この想いは最終盤まで断ち切ることはできませんでした。
作者さんは、最終的にそれは断ち切るものではない、という結論に結びつけています。

7巻の響子さん自身の言葉にあるように「あたしって……… いいかげんな女なのかしら。もしかすると……もしかしなくても…… スキンシップに弱いのよね…………」という人でもあります。
これは相反する要素のようでそうでもなく、感情に流されやすいと自覚しているからこそ、結婚の結論に急ぐことができなかったとも言えそうです。
三鷹さんから言い寄られても五代くんがいて、五代くんに気持ちが揺らぎそうになると三鷹さんがいいよってきて、と結論が先延ばしになりました。

12巻で一の瀬さんが言っているように、彼女の「呑気さ」=鈍感力で、三鷹さんや五代くんとの関係を急がないことで、自らの感情と向き合う時間を持て、その猶予期間が、惣一郎さんへの執着をゆるやかにほころばせたことで、最終的に結婚に結びつけられたことはあるでしょう。

まとめ

まとめます。

音無響子の、融通の利かなさや意固地、他者への感情的な鈍さといった「鈍感力」は、五代裕作の成長を待つための「時間」でもあり、三鷹瞬との結婚を阻止する「防御壁」でもあり、そして惣一郎への気持ちを整理する「心の猶予」という、三重の役割を果たした。
この鈍感力こそが、作者・高橋留美子さんが、響子と五代のラブストーリーを成功に導くための仕組んだ時間調整のシステムであり、構成の妙であった。
響子の呑気さや鈍さは彼女の欠点として描かれてもいるが、『めぞん一刻』のラブストーリーを美しく、丁寧に描くために必要不可欠な武器だったのだろう。

というのが私の考察であり解釈でした。

本文に書いたことは私の個人的な意見や解釈でしかありません。決して情報を鵜呑みになさらず、参考程度に抑えて受け取ってくださると幸いです。

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