スマホがあれば、LINEやX(旧Twitter)などを使えば、瞬時に連絡を取ることができる令和の現代。
昭和の時代にはスマホはおろか、インターネットも、携帯電話もありませんでした。
スマホやケイタイがなかった時代の人たちはどういう恋をしていたのでしょう?
令和の現代と昭和の時代の恋の違い。反対に、時代を超えても共通する恋の難しさもあるかもしれません。
そういったことを、ラブコメの金字塔『めぞん一刻』の印象的なエピソードから紐解いてみます。
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めぞん一刻の連絡手段の考察
| 作品名 | めぞん一刻 |
| 作者 | 高橋留美子 |
| 単行本1巻と最終巻発行日 | 1982年5月1日、1987年7月1日 |
| ジャンル | 青年、恋愛、ラブコメ |
| 発行社 | 小学館 |
| レーベル | ビッグコミックス |
| 巻数 | 全15巻(単行本) |
高橋留美子さんによるラブコメの名作『めぞん一刻』。
といったように、ラブコメと一言で紹介されてしまうことが多いですが、シリアスな「大人の恋愛」を描いてもいる、奥深い作品となっています。
冒頭でも書きましたように、当時はスマホもインターネットもガラケーもなかった時代です。
距離が離れた相手とのやり取りは電話でした。それか手紙。
手段としては電報もありますけど、こちらは好きな相手との連絡には基本使いませんでしたね。その点は現在も同じでしょう。
そんなデジタル到来前、アナログ時代の恋のやり取り、五代裕作と音無響子の不器用な大人の恋愛を深堀りしていきます。
電話
昭和の時代には、「電話」が距離の離れた好きな相手との最も手っ取り早い連絡手段でした。
「待つ」ことと「声」
例えば学生時代のことを思い返しますと、学校の登下校に連絡なんて取れません。
今ならLINEなりXなりメールなりでいくらでも連絡を取れますけど、昭和はそうはいかないのですね。
公衆電話が、現代よりずっと多く町に設置されてはいました。
それなら公衆電話からかければいいじゃない。
そのように思われた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、スマホがないのですから、そのとき電話をかけても相手が家にいるとは限らないのです。
相手が外出しているかどうか、家にいるかどうかさえ、こちらはわからない。
スマホがないということは当然、相手が住んでいる家、実家ぐらしなら実家にかけます。
電話番号を覚えておくのですね。仲のいい友だちの電話番号は暗記していることが「昭和あるある」です。
統計はとっていないですけど、当時は母親が家にいることが現代よりずっと多かったでしょう、基本は母親が電話に出てきました。
私は男ですので、「◯◯さんはいらっしゃいますか」「ご在宅でしょうか」などと親に聞く訳ですが、これがまぁ緊張するのです。大人にかけますし、こちらの言葉遣いなど人間性が試されますから。
恋に対して、異性に対してオープンな親御さんももちろんいましたが、そうでないことも多く、相手が男だとわかると親に警戒され(声のトーンや内容から察せられます)、娘は今家に居ないと嘘をつかれることも何度もありました(後日、その時間帯は家にいたと本人から知らされる)。
こちらも親が電話に出るとわかってかけていますから、相手が電話に出るまでがとても緊張した思い出です。
なのである程度仲がよくなるまではあまり電話をせず(できず)にいましたね。
仲良くなってからなら、「何時に電話をかけるから出てね」などと事前に約束をできますから。
それまでに食事やお風呂、トイレを済ませておくと。
時間まで何を話そうか、相手は今ご飯を食べているのだろうか、宿題をしているのかな、などと思いを巡らせるのです。
電話を待つ時間が想いを育む、と言えるでしょう。
そして電話の特徴は「声」ですよね。
好きな相手の声を聞けるってすごく特別なことだと思います。
受話器から囁かれているようでもあり。
これはメールやチャットでは味わえないことでしょう。
めぞん一刻の場合
『めぞん一刻』のメインキャラクターの一人「五代裕作(ごだい・ゆうさく)」。
彼と、「管理人さん」こと「音無響子(おとなし・きょうこ)」の電話のエピソードも本作には何度もありました。
例えば15巻(単行本版の最終巻)PART♥3「TEL YOU SWEET」は、電話が鍵になっているエピソードです。
就職活動に失敗した五代くんが、アルバイトを転々としながらようやく自分の歩む道を見出し、保父になるべく保父の資格試験に挑んだ回です。
保母や保父は現代でいう「保育士」ですか、名称からも時代を感じます。
補足情報として、このとき五代くんと管理人さんは既に恋人の関係になっています。
恋人どころか、それまでの出来事から、2人にとって付き合う=結婚です。これももしかしたら昭和の考え方や価値観なのかもしれません。
どうして付き合う期間がなく、いきなり結婚なのか。その理由は2人のこれまでと、何より管理人さんの過去が大きく絡んでいます。ですが、この件は今回重要ではないので詳しく触れません。
試験に合格して保父の資格を取ったら、彼は彼女にプロポーズをしようとしています。
彼女もそれをわかって、信じて自らが管理しているアパート(下宿屋)の「一刻館」で待っています。
彼が試験に向かうとき、アパートの門でお見送りをする彼女が「電話をくださいねー。」と言うと彼は「まっ先に響子さんにお知らせします。」(52ページ)と、約束をしたのです。
夕方、五代くんの住むアパート2階の5号室で、「残念会」を開くべく準備に勤しむ他の住人たち。落ちると決めつけているのですね、意地悪で。
管理人さんも、彼らといっしょにいます。
そこへ電話がかかってきました……が、電話は共有の電話が1階の玄関に1台、それとと1階の管理人室に1台あるだけ、つまり住人の部屋には電話が引かれていません。
その電話は管理人室にかかってきました。
どちらにしても、2階にある5号室からは距離があり、管理人室はより遠くにあることもあって、管理人さんが電話を取る直前にコールが切れてしまいました。
スマホなら常に自分の手元に置いておけるのに、当時は人間が電話のある場所に取りにいかなければいけないのですね。ここが昭和ならではですし、エピソードの鍵になっています。
電話はもちろん五代くんでしたが、彼はバイトがあるので、バイトへ。
バイトでも隙を見つけては電話をしていたようですが、その頃には他の住人たちは主役を待たずに、管理人さんを巻き込んで祝宴を始めていています。
管理人さんは、先ほどの電話が五代くんからのものだったはずだと、管理人室から離れないようにしたいのですが、住人がそれを許さず、強引に5号室に連れ戻そうとします。
階段を上っていると、再びコールが、響子さんは急いで取りに行きたいのですが、酔っ払った住人たちがそれを阻んで、またもやギリギリのところで途切れてしまいました。
五代くんはバイトに戻り、バイト(キャバレーのホステスさんの子どもの子守)先で資格試験合格のお祝いをしてもらいます。その頃、一刻館では残念会。
バイトが終わり、帰宅の帰路の途中、道端に設置されている公衆電話から再び管理人さんへ。
このときは管理人室ではなく玄関口の電話にかけています(63ページ)。この辺りも凝っていますね、かける電話を使い分けているのですね。

一刻館。リーンリーンとコールされると、管理人さんは脇目も振らず5号室(宴会を断りきれていないとも言える)をダッシュで飛び出し、「どたた」と廊下を走り、電話口へ駆けつけます。
そうしてとうとう電話がつながります。
どうだったか気になるので、前置きはともかく結果をすぐに尋ねる響子さん。
そんな彼女に彼は「おかげさまで」と答えます。
彼女は「…おめでとうございます」と感慨深げに祝福。
その頃には住人たちも追いついて電話の周りに集まってきて、念のため(!)用意していたクラッカーをごそごそと紙袋から取り出して、皆で「おめでとー五代くん!!」と祝福の言葉をかけながら、一斉にそれを「スパパパパ」と鳴らします。
ちょうどそのとき、五代くんは「ぼ、ぼくと…けっ…」と、まさに響子さんにプロポーズの言葉を言おうとしていたのですが、住人の声とクラッカーの音にかき消され、響子さんの耳には届かず。
音が鳴り止んだところで、響子さんは五代くんに再び聞き出そうと「す、すみません よく聞こえなかっ…」とまで言ったところで電話が切れていることに気がつきます(66ページ)。
五代くんの10円玉が切れて、通話が強制終了していたのです。
(今は10円で56秒だそうですが、当時は3分くらいあった気がしますが記憶が定かではないです)
おそらく事情を察したのでしょう、受話器を両手で丁寧に戻しながら「おめでとう」と噛みしめるように心の中で祝福をする響子さんでした。
という、このエピソードはまさに昭和時代の、固定電話ならではのエピソードと言えるでしょう。名エピソードと思います。
「らしさ」
この話は何とも彼ららしいエピソードでもあります。
大事なことなんだから、あらかじめ10円玉を複数枚用意しておけよと、五代くんの詰めの甘さがよく表れています。
そして管理人さんも、しっかりしているようで抜けている性格がよく表れています。
結局は住人の宴会の誘いを断ることができていないのですから。
五代からの電話を確実に取りたいなら、事情を説明した上で宴会を断ることはできたはずです。
一の瀬さんと四谷さん、朱美さんが、他人(五代くん)の部屋に勝手に出入りし、勝手に宴会の準備までしている、ということはアパートの管理人として見守らなければ、という「責任感」や「勤労精神」だったのかもしれません。
が、もう彼らが5号室に入り浸ることは日常茶飯事のため今更感があります。
手紙・はがき
電話ほどではありませんけど、「手紙」や「はがき」も『めぞん一刻』では取り上げられています。
手紙やはがきが重要なコミュニケーションツールである理由は、捨てるなどしないかぎりは手元に残ることと相手の筆跡がわかること、でしょう。
めぞん一刻の場合
めぞん一刻では、単行本5巻「PART♥9 配達された一枚の葉書」があります。
この頃、五代くんは大学生で、響子さんの亡き夫「惣一郎さん」の音無家で、彼の姪である「郁子ちゃん」の家庭教師のアルバイトをしています。
バイト終わりに惣一郎さんの父(響子さんの義父)からある冊子を託されます。惣一郎さんの日記でした。
響子さんに惣一郎さんのことを思い出させたくない五代くんでしたが、頼まれごとですし、彼女にとって大切な人や物を無碍にできないですから、アパートに帰って、玄関で自らを迎えてくれた彼女に日記(が入った紙袋)を手渡します。
案の定、彼女は日記に心を奪われ、それを胸に抱きながら「惣一郎さん…」とつぶやきながら放心。そんな様子を見てしょげる五代くん。
一人、管理人室で中身を読む管理人さん。
内容は昭和52年の春からのもので、惣一郎さんと響子さんは出会っています。
惣一郎さんは、響子さんの高校の地学の非常勤講師でした。
つまり彼は教え子と結婚していて、10歳ほど歳が離れている年の差婚です。
自分のことが書かれているか、自分のことがどのように書かれているかが気になり、ドキドキしながらページをめくります。
が、日記には「何月何日に何を食べた」とばかり書かれていて、「これ…本当に日記なのかしら…… 献立表じゃないの……?」と響子さんさえ言ってしまうレベル(193ページ)。

しかし、七月三十日のところに変化がありました。
「彼女から このようなものが届いた。不可解なり」とあり、その左隣りに葉書が貼り付けられた(というか葉書の四隅を差し込めるように日記の一部に切れ込みを入れている)跡があります。
でも問題の葉書は無く。
その後もその件を気にする様子が書き込まれていました。
ここには何があったのだろう、写真かもしれない、でもサイズ的には葉書だろうと推測する彼女。
自分が出したものだろうか、でも彼を「不可解なり」などと困らせるような葉書を出した記憶はないし。
では別の女性?
このときの惣一郎さんは27歳、付き合っている人がいたかもしれない。
それまで響子さんは、「(彼は)かわり者だから、てっきり誰もいないと思い込んでいたけど……」などと失礼なことを考えます(195ページ)。
確かめようと、まずは翌日に音無家に電話をかけますが、義父には葉書のことは知らないと言われます。
次に届けてくれた五代くんに自分に何か渡し忘れはないか聞こうとしたのですが、彼は自分がショックを受けている(惣一郎さんのことを考えるきっかけを与えた)ことを誤魔化そうとして、詳しく聞く前にそそくさとバイトに行ってしまいました。
が、五代くんはその夜、自室でバックの中に葉書が紛れていたことに気づき、管理人さんにそれを届けました。
中身を確認すると、それは千草響子からの「暑中見舞い」でした。
結婚前の管理人さんの名前です。
日記の日付は7月30日でした。学校は夏休みに入って、それもあって千草さんは先生に葉書を出したのでしょう。
その頃、既に響子さんは惣一郎さんのことを好きだったと思われます。
響子さんは謎のスペースが自ら出した暑中見舞い、と知って拍子抜けします。
だって、他の女性の影を想像していましたから。
それと同時に、惣一郎さんが当時から自分のことを想ってくれていたことを知ることができ、嬉しくなった。
そういう手紙・葉書ならではのエピソードでした。
筆跡
手紙や葉書ならでは効果と言いますと、「筆跡」が思い浮かびます。
書かれてた筆跡から、その為人(人となり)を感じ取ることができます。
綺麗な字、汚い字、思っていたより大きな字だなとか、ゴツい字だなとか、小さな字とか、繊細な字とかと、どのような人物かが伝わるようです。
管理人さんで言えば、たぶん亡くなってから手紙や葉書を見ることは、極力避けてきたはずです。
先ほど五代くんが落ち込んでいた理由のとり、亡き夫を思い出してしまうから。
「三年もたてば、あんたも冷静に読めるだろうしね。」とは義父の言葉。
亡くなった直後にもしかしたら遺品整理などで亡夫の筆跡を見たかもしれませんが、おそらく、およそ3年ぶりに見ることになりました。
筆跡は、ネットのテキスト情報からでは得られない、アナログならではの効果でしょう。
夫はもうこの世にいないけど、筆跡だけは生前と何も変わらずにそこにいる。
何月何日に何をしていたか、内容だけじゃなく字のクセだけでも、彼が読者に語りかけているように思えるかもしれません。
そしてネットでのやり取りは即時的な一方で、手紙などには数日の誤差があります。
先ほど触れました電話と同じように、いや、それ以上に、人から人に届くまでの時間がかかるが故に、その時間もお互いの心の距離を縮める上で大事なことなのかもしれません。
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制約があってこその純愛?
これまで2つ挙げました、電話と手紙・葉書について考えていきますと、共通する昭和の恋愛の特徴が見えてきます。
それは「『制約』があることによって恋愛感情が育まれている」ように思えることです。
デジタルチャットの文字情報では得ることのできない・できにくい、声や筆跡という「人肌のぬくもり」を得られること。
また手紙や葉書は相手に届くまでに時間がかかることもあります。返信まで含めると日数はだいぶ必要です。
そういったアナログな関係だからこそ、可能になっているめぞん一刻など昭和の恋愛の描かれて方だと思います。
手軽には言えないからこそ、時間がかかるからこそ一言一言に重みがある、という見方もできるかもしれません。
そういったアナログツールが五代くんと響子さんの想いの一途さを際立たせる「装置」にもなっていそうですね。と言いつつ2人とも、三鷹さんやこずえちゃんなど、それぞれ脇道に逸れることもままあるのですが。
また、すぐに連絡を取れないこと、伝えられないことで、誤解を生じやすく、また誤解を生じた場合も修正しづらい、ということもあるでしょう。
こちらはポジティブなことともネガティブなこととも言えそうです。
電話でプロポーズをする際は、その電話ならでは不便さが物語を動かす要素にもなっている訳で、これがデジタルだとなかなかああは描けないかもしれないですね。
いや、充電が切れる、ということにすればいいのか。
共通することもある
これまでアナログとデジタルの恋愛の違い、物語で描かれる内容も異なることを書きました。
しかし同時に、アナログとデジタルを無関係に存在する恋愛の共通点も見いだせそうです。
それは相手が人間であること、相手の感情がある、ということです。
用いる道具がアナログであろうとデジタルであろうと、そこは共通しています。
スマホは確かに固定電話時代よりも、あるいは手紙などよりも、相手との連絡は取りやすくなっています。
しかし、現代も相手を慮って電話やチャットをしないことはあるでしょう。また、電話やチャットをすることで、つまり相手に踏み込むことで、関係性が変化してしまう、下手をすると関係が破綻してしまうことだって、場合によってはあるでしょう。
電話やチャットをすることで、今までとは同じ関係ではいられないところに踏み込む危険があるときに、心の強さ弱さとは無関係に関係性を変えることを躊躇してしまうこともあるでしょう。逆に、変えたいからリスクを承知で敢えて踏み込むこともあるでしょう。
そこはデジタルであろうとアナログであろうと変わらない、普遍的ところだと思います。
なので、何でもかんでも昔はよかった、今はダメだと結論付けてしまうのは乱暴でしょう。
まとめ
まとめます。
現代の、ある意味で「手軽」な恋愛とは異なり、『めぞん一刻』が連載されていた1980年代の恋愛は、固定電話と手紙・葉書が主な連絡ツールで「不便」だった。
けれども、不便だからこその話したい会いたいという想いを育む時間ができ、そのため「豊か」だったとも言えそう。
現代でも本作が名作ラブコメ漫画作品と評される理由は、時代を超えた恋愛の「距離感」と「もどかしさ」がよく表されているからだろうと思う。
現代の恋愛はある意味便利と言ったが、相手に配慮して連絡をしなかったり、関係を変えたくないから連絡できなかったり、と便利であるが故に余計にもどかしい想いをすることもあるだろう。
そこは普遍的なテーマとも言えるから、物語を動かす装置として本作では現代とは異なるツールが用いられているものの、現代の若い人たちにもぜひ読んでもらいたい作品。
というのが、私なりの解釈と感想でした。
本文に書いたことは私なりの意見や解釈でしかありません。決して情報を鵜呑みになさらず、参考程度に抑えて受け取ってくださると幸いです。
ということで、今回はここまでになります。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
既に記事にしています、『スキップとローファー』や『ひらやすみ』といった令和の恋愛漫画との比較記事も今後予定しています! お楽しみに。
今回の比較考察の場面を原作で読んでみたいあなたへ
今回の比較考察はいかがだったでしょうか?
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