『めぞん一刻』考察:五代のキャバレー搾取は自己破産レベル?負債額を検証

めぞん一刻
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『めぞん一刻』の物語終盤、五代裕作は不運にも保育園のアルバイトを失業し、キャバレーでの呼び込み業務に就くことになります。
そこで彼は、一刻館の住人たちに勤務先を秘密にする代わりに、毎晩のように「たかり」を受け入れることを強要される目に遭いました。

一見すると単なるいつものドタバタですが、当時の物価や店舗の業態を考慮して収支を計算すると、その負担額はフリーターが負える範疇を大きく超えています。原作の描写から読み取れる具体的な情報をもとに、彼が直面していた経済的危機の実態を検証します。

ネタバレ要素がありますので、バレても大丈夫な方のみ下方スクロールをお願いいたします。

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キャバレー「搾取地獄」の火種と構造

まずは『めぞん一刻』についてです。

作品名めぞん一刻
作者高橋留美子
単行本1巻と最終巻発行日1982年5月1日~1987年7月1日
ジャンル青年、恋愛、ラブコメ
発行社小学館
レーベルビッグコミックス
巻数全15巻(単行本)

『めぞん一刻』は高橋留美子さんが、1980年代、昭和の時代後期から末期にかけて描かれた、ラブコメの金字塔的作品です。

無職の五代くんは、悪友・坂本に宣伝の仕事があると紹介され、キャバレーの呼び込みをする羽目になりました。
12巻「PART♥5 沈黙は金ヅル」90ページより

本稿では、本作のメインキャラクターである「五代裕作」がキャバレーの呼び込みをしているときの、住人たちのたかり・ゆすりに関する考察です。

※以降書きます、巻数とページ数はオリジナル版の単行本に対応したものです。

五代くんがキャバレーで働くことになったきっかけは、重なる不運からでした。
10巻「PART♥4 バラ色の人生」大学卒業を目前に控えた時期、内定していた会社が倒産し、さらに12巻「PART♥3 シャボン玉 翔んだ」ではアルバイト先の保育園も人員削減のためにクビになってしまいます。

生活費を稼ぐため、友人の「坂本」から紹介されたのがキャバレーの呼び込みの仕事でした。12巻89ページで、五代くんは「全国チェーンの宣伝部門」という言葉を信じて面接に向かいますが、実際には法被を着て路上に立つ呼び込み業だったのです。

当初、五代くんは管理人さんに保育園をクビになったこととキャバレーで働いていることを隠していました。
理由は、この頃五代くんは、祖母「ゆかり」から依頼で響子さんに毎日お弁当を作ってもらっていることもあって、彼女の信頼を裏切れない、と思っているのです。
隠す行為自体が裏切りとわかっていつつも、すぐに別の保育園のバイト先を見つけて、キャバレーはさっさと辞めてしまえば問題ないと思ったのでしょう。

ところが12巻「PART♥5 沈黙は金ヅル」95ページで、偶然通りかかった「四谷」さんに現場を見つかったことを皮切りに、その翌日には「一の瀬」さんと「朱美」さんもこぞって来店するようになります。
管理人さんに言えないことをいいことに、彼らは、連日の来店を正当化し、店での飲食代を彼に肩代わりさせるようになります。端的に「たかり」と「ゆすり」です。

どのくらいの期間か

四谷産たちによるゆすり・たかり状態は、管理人さんが真実を知った日まで続きます。具体的には12巻「PART♥5 沈黙は金ヅル」95ページから同巻「PART♥7 ごめんね LUNCH・BOX」125ページまで、五代くんの給与を飲み込む過酷な状況が続いたと考えられます。

期間は描かれていませんでした。

キャバレーで働き始める前のエピソード12巻「PART♥4 陽だまりの告白」にて、失職中に響子さんの手作り弁当を公園で食べていた場面では、公園にいる他の人たちの服装が、ダッフルコートなど重装備ではなくジャケットを着ています(12巻80ページ)。
このことから、1月下旬や2月上旬の真冬ではなく、寒さの底を脱し少しずつ暖かさを感じ始める初春(3月)くらいかなと想像されます。

ゆすり・たかり問題が解決した直後の12巻「PART♥8 愛と哀しみの破談」冒頭では、五代くんが、それまで夜学だった保父の学校を日中のクラスに変えていて、学校に出かける場面が描かれており、そこに桜の花びらが散っている様子を確認できます。
8話冒頭時点で3月末から4月上旬頃の時期と判断して差し支えないでしょう。

その直後に一の瀬さんの「呼び込みもきっちり続けるつもりらしいじゃない」、響子さん「環境に馴染むの早いから」とのセリフがあること(12巻143ページ)から、キャバレーのバイトを始めてからあまり月日が経っていないように受け取れます。

失職から新しい生活(保父試験に向けた通学スタイルの変更)が始まるまでの物語の流れを整理すると、キャバレーでの「搾取」が行われていたのは、3月上旬から4月上旬にかけての約1ヶ月間と考えるのが妥当でしょう。

よって、四谷さんたちがたかっていた時期は、3月上旬から4月上旬くらいのおよそ1ヶ月間と、このサイトでは期間を定めることにしました。
以降書く内容も、この1ヶ月ほどの期間の出来事として話を進めていきますので、ご了承ください。

【検証】一晩の飲み代と1ヶ月の推定負債額

実際に五代くんの給料から差し引かれた負債額がいくらになるのか、作中の描写をもとにシミュレーションします。

何を飲んでいたか

四谷さんたちが何を飲んでいたのかを知る手がかりが、12巻「PART♥6 発覚」120ページの2コマ目にあります。
五代くんが叩いたテーブルの上には、ラベルに「☆マーク」がついたボトルが2本描かれています。当時の銘柄から推測すると、これはサッポロビールである可能性がありそうです。

12巻104ページでも朱美さんが「ビールじゃんじゃん持ってきて」と注文していることから、彼らは高価なウイスキーのボトルではなく、比較的単価の低いビールを中心に飲んでいたことがわかります。
これは住人なりの気遣いだったのかもしれません。

キャバレーにおける「ビール代」の罠

しかし、ビールとは言えキャバレーですから、決して安い飲み物ではないでしょう。

私はキャバレーで飲食をしたことがないので、想像でしかないのですが、客単価は15,000円から30,000円、このくらいが一般的だったのではないでしょうか。
時代はバブル期直前です。1980年代後半当時の大卒初任給が10万円台中盤(145,000円ほど)だったそうですから、非常に高額です。

一の瀬さん、四谷さん、朱美さんの3人が「じゃんじゃん」と飲み、さらに途中から「二階堂」くんまで加わったことを考えると、セット料金を含めて1人あたり3万円前後、合計で一晩10万円近い金額が動いていたとしても不思議ではありません。

1ヶ月の負債総額を算出する

12巻98ページで、店の上司が五代くんに「日当から引いていいんだな」と確認し、五代くんが力なく承諾するシーンがあります。
仮に1日の飲み代を10万円とし、それが先ほど推測した「約1ヶ月(30日)」続いたと仮定すると、総額は300万円に達します。

前述のとおり、当時の大卒初任給が15万円弱であったとするならば、年収は180万円ほどです。ひと月に300万円という金額は、五代くんの年収を遥かに超えていたはずです。
日給をすべて飲み代に充てても追いつかない「自己破産レベル」の負債を抱えていたことが、数字からも裏づけられます。

【番外編】現代の「平屋暮らし」との比較:15万円の重み

五代くんが背負った負債の異常さを浮き彫りにするために、現代の平屋暮らしを描いた話題作、漫画『ひらやすみ』(真造圭伍・著)の事例と比較してみましょう。

単行本4巻において、主人公のヒロトは自宅の給湯器が故障し、不動産屋の家の担当者である「立花よもぎ」から「交換に15〜20万円かかる」と告げられます。
譲り受けた家のため家賃負担のないヒロトであっても、この金額は「銭湯代(1回500円)すら惜しい」と感じる生活の中で、「オレ、仕事増やすわ」と決意させるほどのピンチとして描かれています。

ここで改めて、80年代の五代くんの状況を振り返ります。

  • 2020年代のヒロト: 自分の生活基盤を守るための、一過性の15〜20万円
  • 1980年代の五代: 住人が面白おかしく飲むためだけに発生した、月換算で300万円(推定)の負債。

ヒロトが「仕事を増やす」と覚悟を決めたのと同等の金額を、五代くんは毎晩のように(しかも自分のためではなく住人のために)溶かし続けていたのです。
このときの五代くんの経済的圧迫度合いの凄まじさがわかります。

上司の正論と、住人の「ヤクザ」な振る舞い

窮地に陥る五代くんを、最も気遣った人物は一刻館の住人ではなく、キャバレーの上司の男性でした。
上司の名前は作中に一度も書かれず、上述した五代くんの友人である坂本の、高校の先輩ということだけわかっている人物です(10巻「PART♥4 バラ色の人生」88ページ)。

12巻「PART♥6 発覚」では、見た目がいかにも強面でヤクザ風の上司が、毎晩のようにたかられる五代くんを本気で心配するシーンが描かれています。
上司はタバコをくゆらせながら、「いいのかおまえ、こう毎晩たかられてたんじゃ…」「ああいうヤクザな連中とは早めに縁切った方がいいぜ」と、五代くんに真っ当な助言を送ります(105ページ)。
夜の世界に身を置く彼から見ても、住人たちの振る舞いは「ヤクザ」な人に見えていたようです。

一方で、「カタギ」であるはずの一刻館の住人たちは、自分たちが有利な立場であることを利用し、五代くんに精神的な圧迫を強めます。
12巻101ページでは、朱美さんが「毎晩ごちそーになるの悪いしさ」と言いつつも、四谷さんが「秘密を共有してる仲間」と返すことで、暗に「秘密を守ってほしければ次も奢れ」と主張し、たかりを続けます。

さらに12巻114ページでは、二階堂くんが響子さんに真実を話しそうになると、四谷さんが上から水を浴びせて口を封じ、115ページでは朱美さんが二階堂くんをゲンコツで殴るなど、物理的な「実力行使」まで行っています。
この「秘密を守る(=タダ酒を飲み続ける)」ための徹底した行動は、上司の言葉どおり「ヤクザな」行動と言えるものでした。

なぜ五代は働き続けられたのか

住人たちによって搾取され続けた五代くんは、当然のように給料が「実質マイナス」になっていたはずです。
それでも彼がキャバレーで勤務を継続できた背景には、店側の配慮があった可能性を示唆しています。

「日当」と「飲み代」の分けていた?

これまで書いてきたような金額が消えている現状、「キャバレーの日当は全額ツケの支払いに消えてしまい、手元に現金が残らない」という絶望的な状況を示しています。
店側とすれば、五代くんに「借金」だけを背負わせて解雇することも可能だったでしょう。

しかしそうしなかったのは、店側が五代くんの認めていた、つまり「店に必要な戦力」と見なしていたのではないでしょうか。

例えば店長や上司の間で「飲み代の回収は日当の範囲内に留め、不足分は彼を辞めさせないための『保留』とする」といった、現場判断があった可能性です。

上司による「防波堤」としての役割

120ページで上司が「おれがナシつけてやろーか」と五代くんに申し出たコマでは、彼は住人たちを「ヤクザな連中」と呼んで警戒心を露わにしています。
この発言から、店側は五代くんを「搾取される被害者」として捉えていたことがわかりますし、一刻館の住人を「上客」ではなく、「大事な従業員の給料を食いつぶす厄介な客」と見なしていたと考えられます。
そのため、酒代の請求を厳密に行いつつも、五代くん本人には「お前のせいじゃないから、仕事さえ続けてくれればいい」といった内々のフォローがあった可能性はありそうです。

「賄い」や現物支給の可能性

キャバレーならではの「食事の提供」も、彼がキャバレーで働き続けられた要因にあったからかもしれません。

と言いますのも、店側が五代くんの困窮を見かねて、本来は有料、あるいは雇用条件にない食事を便宜的に提供していたとすれば、それが彼にとっての直接的な、あるいは物理的な救済となっていたと考えられます。

救世主(?)二階堂望が果たした役割

響子さんが、五代くんがキャバレーで働いている様子を目の当たりにしてしまった場面です。
12巻「PART♥6 発覚」122ページより

一刻館の住人たちが五代くんのプライドを「ゆすり」という形で見守り続けていた一方で、空気を読まない二階堂くんの存在が、図らずもこの停滞した状況を打ち破ることになります。

12巻113ページ、二階堂くんがキャバレーの法被はっぴ姿の五代くんを街で見かけたことで、とうとうそれまでのアンバランスなバランスが崩れ始めます。
先ほどご紹介した12巻114ページで彼が響子さんに真実を伝えようとした際、四谷さんが水を浴びせ、115ページでは朱美さんがゲンコツで二階堂くんを制したのは、五代くんの「自発的な告白」を待とうとする住人なりの配慮でもありました。
117ページで朱美さんが放った「感謝してもらいたいもんだわよ」というセリフは、二階堂くんの無神経な介入から五代くんの体面を守った、という自負の表れと読むことができるからです。

しかしながら、二階堂くんが事情を知ってしまったことで、119ページにあるように住人たちは彼を連れてキャバレーに来店せざるを得なくなります。
秘密を共有する人間が増えたことは、五代くんにとってさらなる経済的圧迫を意味しましたが、同時に「これ以上は隠し通せない」という覚悟を決めさせる決定打となりました。

結果として、二階堂くんという新たな目が加わったことで、五代くんは120ページで「今夜!! 管理人さんにすべて告白します!!」と宣言するに至りました。
もし二階堂くんの登場がなければ、住人たちとの歪な関係は、もう少し長く続いていたことでしょう。

『めぞん一刻』考察:二階堂望という異分子が物語の停滞を壊した理由
『めぞん一刻』後半に登場した二階堂望。作者・高橋留美子さんが「動かすのが大変だった」と語るほど異質な彼の「無神経さ」は、主要キャラが保っていた心理的防壁を壊し、停滞した関係を動かす鍵となりました。物語完結に必要だったジョーカーの功績を読み解きます。

結論:負債を乗り越えた先にあった『天職』

五代くんがキャバレーで負った経済的ダメージは、これまでの学生生活での苦労とは比較にならないほど深刻なものだったはずです。
しかし、この絶体絶命とも思える期間が、彼の人生にとって単なる損失で終わらなかった点に『めぞん一刻』という物語の深みがあるように私には思えます。

12巻「PART♥9 菊と積木」では、五代くんがキャバレーに預けられたホステスの子どもたちの面倒を見る「福利厚生部長」としての役職に就くことになります。
一刻館の庭先で手作りの積み木を作るという、生来の手先の器用さを発揮しており、彼の、子どもたちと向き合う姿は、まさに保父としての原点と通ずるものでしょう。

このキャバレーでの出来事を経て、五代くんは12巻131ページで響子さんに真実を知られることになります。しかし、その後の一の瀬さんのフォローもあって、保育園をクビになったことが「不祥事ではなく人員整理」であったという事実も明らかになり、二人の信頼関係は修復されました。

金銭的な面だけを見れば、住人たちに飲み尽くされた金額は大変なものでした。しかし、もしあの「ゆすり」に耐えながらもキャバレーで働き続け、子どもたちの世話をする経験があったことも、五代くんが12巻「PART♥3 シャボン玉 翔んだ」56ページで語った「やっぱ、この仕事おれに向いてるし」という確信の裏付けになっていたことでしょう。

キャバレーでの苦い経験こそが、彼を「頼りないフリーター」から「責任ある社会人」へと押し上げる、一つ大きな試練だったと言えるのではないでしょうか。

『めぞん一刻』五代裕作:フリーターから保父へ、就職失敗と天職への回り道
『めぞん一刻』五代裕作のバイト生活と就職失敗、フリーターを経て保父という天職に巡り会うまでの幸運な回り道を分析。彼の人生の偶然と必然を考察します。

まとめ

まとめます。

五代裕作がキャバレーでのアルバイトを通じて直面した「地獄」のような接待は、ギャグの範疇を超えた深刻な事態であったことがわかります。
推定される約三百万円の負債額は、彼が保父という夢をつかむ直前に支払った、あまりにも高額な「授業料」だったと言えるでしょう。

しかし、この過酷な一ヶ月間があったからこそ、彼は自らの適性を再確認し、管理人さんに対して誠実な一歩を踏み出すことができました。
お金では決して買えない「天職」と「信頼」を勝ち取ったこのエピソードは、五代裕作という人物が一人前の大人へと成長を遂げるための、避けては通れない最終試験だったのかもしれません。

本文に書いたことは私の個人的な意見や解釈でしかありません。決して情報を鵜呑みになさらず、参考程度に抑えて受け取ってくださると幸いです。

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ということで、今回はここまでになります。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

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