『めぞん一刻』の、私の胸がときめいた「恋の名シーン」ランキングTOP5です。
おじさんの私でも胸がキュンキュンする恋の名シーンを5つピックアップし、私がより強くときめいた順番にランク付けしました。
今回の選定のキーワードは「じれったさ」です。
「音無響子」と「五代裕作」のじれったいやり取りには、私だけでなく、読者の数だけ青春の思い出が詰まっていることでしょう。大人になった今、青春の思い出として、より一層心に沁みます。
本記事では、二人の目に見えにくかった優しさや一途な想いという、「昭和の純愛」の尊さを再考察します。
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『めぞん一刻』は胸キュンシーンの宝庫
| 作品名 | めぞん一刻 |
| 作者 | 高橋留美子 |
| 単行本1巻と最終巻発行日 | 1982年5月1日、1987年7月1日 |
| ジャンル | 青年、恋愛、ラブコメ |
| 発行社 | 小学館 |
| レーベル | ビッグコミックス |
| 巻数 | 全15巻(単行本) |
『めぞん一刻』は高橋留美子さんによる、昭和の時代に描かれたラブコメです。恋が成就しそうでしない、やきもきする場面の何と多いこと。でもそのもどかしさがいいんですよね。
冒頭でも書きましたように、本稿では『めぞん一刻』の恋の名シーンを私の好みで選び、TOP5としてランキングにしています。
物語開始から物語の終盤に二人の恋が成就するまでの間、二人の距離は近づいたり離れたり、キスの寸前までいったり、成就しそうなのに邪魔が入ったり、色々な出来事がありました。
『めぞん一刻』胸キュンシーンTOP5
『めぞん一刻』の胸がときめく名シーンのTOP5 です。
以降、巻数とページ数を書きますが、すべてオリジナルの単行本に対応したものです。
5位 8巻10話「なんでもありません」

5位は響子さんと五代くんがお互い好き合っていることが明らかになる回です。
巻数は8巻、「PART♥10 なんでもありません」になります。
詳細
一刻館の空き部屋の一つ2号室に、大学生の「二階堂望」が引っ越してきます。
彼は「一刻館に新しく入った子が問題児でさー」(一の瀬さんのセリフ、8巻221ページ)「アパートの人がぼくのことニブいニブいって言う」(本人のセリフ、8巻225ページ)、「深く関わりさえしなければいい子」(響子さんのセリフ、同巻同ページ)という人物です。
簡単に言うと「人の心の機微に”相当”に鈍く、”相当”に空気の読めない子」です。高橋留美子作品らしく、極端すぎるほど極端なのですね。
彼が原因で響子さんと五代くんが喧嘩をしてしまいます。いつものとおり響子さんの「怒り」「嫉妬」ですね。
二階堂くんは二人の「異常な関係」(一の瀬さんのセリフ、8巻168ページ)を知りません。
ですから、二人は喧嘩をしているのだろうか、そうでないなら管理人さんが五代くんを嫌っているだろうと思い、そのことを五代くんに聞きますが、明確な答えは返ってきません。
しかも、五代くんは今、管理人さんと喧嘩をしているの君のせいだ、と言うものですから、響子さんにもそれを聞いてしまい、事が大きくなってしまいます。
夜、どうしても理由がわからない二階堂くんは、自室に一の瀬さんと四谷さん、朱美さんを呼んで、どうして喧嘩の原因が自分なのか、を聞いています。
彼らは、二階堂くんに自ら答えにたどり着けるよう、答えを直越言わずにヒントを出します。
「ガールフレンド」「夕飯」「ヤキモチ」などヒントが出されるのですが、それらがどうしても自分と結びつくのか、彼は答えを出せず。
しかし、ヒントを126ももらって、ようやくある答えにたどり着くと、外はもう朝になっていました。
五代くんがバイトか学校へ向かうため玄関に降りてきたところ、二階堂が部屋から出てきて、彼に言うのですね。
五代さんと、管理人さんはっ、実は好き合っているんでしょお~~~っ
8巻「PART♥10 なんでもありません」213ページより
と、やっぱり空気を読めないものですから、直接言ってしまいます。
それを聞いて慌てた響子さんは「私と五代さんはなんでもありませんっ」と、五代くんも彼女に同調して「そ、そうだよ なんでもないんだから」などと否定するものですから、彼は自室へ、さらなるヒントをもらいに帰りました。
好き合っている、と改めて確認できた二人は、これで仲直りです。
考察
「好き合っていることを他人に知られたくない」という二人のピュアな心理が働いています。
これまでも、響子さんは五代くんを好きであることを否定し、五代くんとも管理人と住人という建前で関係を保ってきました。
しかし、二階堂くんにどストレートに指摘されたことで、建前を守りたいという理性と、バレたことの動揺が限界まで高まったのでしょう、大声での「なんでもありません」という否定の言葉となって表れています。
一の瀬さんたち住人からすれば、あるいは私たち読者からすれば、その強い否定は、肯定の裏返しでしかないのですけど、鈍い二階堂くんにはそれが伝わっていません。
またその強い否定は、二人にとって二人の恋愛は「他人の評価や詮索を必要としない」ものであることを提示してもいて、純粋な秘密の共有こそが、私にとっての胸キュンポイントとなっています。
そして、このエピソードは、二階堂くんの空気の読めなさのせいで喧嘩になり、そして空気の読めなさのおかげで仲直りもできた。見事なマッチポンプの構造を採っています。
つまりは、お互いが大声で同じ否定をするということは「自分と同じ気持ち」であることを確認できたため、一気に仲直りできました。
二階堂くんのド直球な発言によって、読者が獲得したカタルシスは、ギャグでありながら極めてロマンチックな構造を採っています。
また、別の角度からこのエピソードを見てみると、一の瀬さんも四谷さんも朱美さんも、普段から二人をからかいつつも、五代くんと響子さんのデリケートな領域には、意識的に踏み込んでいなかった、その配慮に気づくこともできます。
非常識の塊のような彼らですけど、その実、結構な常識人だったことも、感じられるエピソードです。
彼らでさえ気を使うレベルの線を平気で越えてしまえる、ある意味で一の瀬さんたち以上の異常性が二階堂くんにはある、ということでもあります。
どうして一の瀬さんたちが安易に踏み込まなかったか、それは彼らが響子さんが未亡人であることを知っているから、ということがあるでしょう。
二階堂くんがこの段階で響子さんが未亡人だと知らないことも、彼の悪気のない悪意につながっている部分はあるはずです(8巻を確認しましたが、響子さんが未亡人であることを知った描写はないようです)。
そんな彼の登場によって、実は一刻館という共同体が、愛情をもって二人の恋愛を見守っているのだ、という事実を浮かび上がらせています。
一言
ちなみに彼はアニメ版では一回も登場しません。原作にのみ登場するレアキャラです。
原作でもここから出番が急激に減ってしまいます。もったいないくらいいいキャラなのですけど。
4位 5巻4話「キッスのある情景」
4位はキスをしたがる響子さん、というレアな回です。
巻数は5巻、「PART♥4 キッスのある情景」になります。
詳細
一刻館6号室の住人「六本木朱美」が泥酔状態で帰ってきました。
騒音に気づき駆けつけた響子さんが、彼女を2階の6号室に運ぼうとするのですが、重くて一人ではどうにもならずに、5号室の五代くんに手伝ってもらいました。
ベッドまで運んだところで、酔った朱美さんが五代くんを、その日別れを告げてきた元彼が戻ってきたと思い違いをして、彼を引き寄せ「キス」をします。
それを目の当たりにした響子さん。大いに狼狽しつつ、管理人であることを利用し「よささま(他所様)の息子さんを預かっている責任上……」などと言いながら、二人の間に入ってキスを止めます。
すると、今度は響子さんを抱き寄せて彼女とキスをする朱美さん。今度は五代くんがそれを見て、興奮し、鼻血を垂らします。
その後、二人とも、お互いが朱美さんとキスをしている場面を忘れることができず、悶々と夜を過ごします。響子さんは五代くんとキスをしそうになる夢さえ見て……。
翌日になっても二人はそれを引きずって、お互いに唇を意識して一日を過ごします。
その夕方でしょうか、五代くんがアパートに帰ると、響子さんは昨夜、朱美さんが酔った勢いで割った電灯の交換をしようと、玄関前で脚立の上に乗っています(危険)。
五代くんが彼女に声をかけ、話をする中でも、やはりお互いがお互いに、相手の唇に目を奪われています。
五代くんのちょっとした一言で、響子さんが(彼の唇への意識から)我に返ったとき、持っていた大きな電球が手から滑り落ちてしまいます。
それを落とすまいと響子さんがバランスを崩し、脚立から落ちます。
彼女を受け止めようと構えている五代くんの唇に、落ちてきた響子さんの唇が重なって、キスをするのでした。
二人ともそのまま地面に倒れ込んで(怪我はなかった様子)、響子さんは謝り、五代くんは動揺しながらも「い、いえっ。いえっ」と応えます。
部屋に戻った二人。響子さんはキスがわざとじゃないとわかってもらえただろうかと考え、五代くんはわざとキスをしたんじゃないかと考える、というお話です。
自分が脚立から落下したことを利用して、ですけど、響子さんから五代くんにキスをすることは、それまで作中一度も描かれていませんので、最初このシーンを見た時は衝撃的でした。
響子さんからのキスは、その後14巻5話「大逆転」(全15巻)まで描かれません。このキスシーンがいかにレアかが想像できるかと思います。
考察
朱美さんが五代くんにした「キス」という行為が、響子さんの理性のリミッターを外しています。
もちろん、リミッターを外した想いは「嫉妬」です。
普段は、管理人の立場を利用して、五代くんへの想いを抑制しているのですが、今回の彼女は管理人ではなく、五代くんとキスをしたい「一人の女性の恋心」がそれを上回っています。
電球を落としたことも事故ではあるものの、決して偶然ではなく、意識的・無意識的な心の「ゆらぎ」がそれを引き起こしています。
理性、これは自分はアパートの管理人だからという理屈や責任から逃れられない響子さんが、キスをするための「免罪符」として創り出したチャンスであって、この彼女のいじらしいまでの「ずるさ」が私の胸を打つのでしょう。
五代くんにとっても、自分がいくら想っても、その想いが届かない響子さんからキスをしてきた、と感じられるこの場面は最高のサプライズになっています。
このキスは、「管理人と住人」という関係を、「お互いに意識する男と女」へと明確に変化させた、と言えるかもしれません。
また、キスをした後、響子さんは「わざとじゃないとわかってもらえただろうか」と考え、五代くんは「わざとキスをしたんじゃないか」とそれぞれ考える。この「すれ違い」、これこそが『めぞん一刻』の醍醐味です。
響子さんは「わざとではない」と建前で自分の管理人や未亡人・独身女性としての立場を守ろうとすし、五代くんは「わざとであって欲しい」と願望を抱いて、それぞれが真実を追求せずに、お互いに心地よい解釈を選んでいる。
この「じれったさ」がすれ違いの正体であり、昭和のラブコメ作品に多く見られる愛のリアルであろうかと思います。
一言
私は男性ですので、どうしても五代くんに感情移入をして読んでしまいますが、憧れの意味合いも強い、好きな人から、付き合う前にキスをされたらどれだけ嬉しいだろう、と初めて読んだ子ども時代に羨ましく思ったものです。
そういう願望を実現してくれたようなエピソードで今読んでも、その初読時の羨望を思い出され、良い場面、良い回と思います。
3位 7巻7話「愛の骨格」

3位は骨折で入院をした五代くんと、自分のせいで彼が骨折したことで責任を感じながら彼の看病をする響子さんとのキス未遂の場面です。
巻数は7巻、その「PART♥7 愛の骨格」になります。
詳細
五代くんが、こずえちゃんとの関係をだらだらと続けていることに、そろそろしっかり線引きをしようと、彼女に別れ話をしに行ったのですが、逆に彼女から「手編みのセーター」をプレゼントされたものですから、言えずに帰ってきます。
響子さんにセーターを気づかれたので、さっと隠したのですが時すでに遅し、響子さんにチクリと嫌味を言われてしまいます。
部屋に戻った五代くんは、(想いを紡ぐ手編みセーターをもらったこともあり)自分だって別れるつもりだったけどできなかった自分の不甲斐なさもあって、「響子のばっきゃろー」と叫びます。
すると、ちょうど一刻館の屋根の修繕をしていた響子さんが屋根上にいて、彼の暴言を聞いてしまいます。
そこで物語始まって以来初めてとなる大喧嘩をしました。
口喧嘩を終えて興奮覚めやらぬ響子さんが、脚を踏み外して屋根から落ちそうになります。
それを五代くんが見つけ、彼女を助けたはいいものの、五代くんが代わりに2階のベランダ(と呼べるほど広くないですが)地面に落下、骨折します。
そのまま入院をしたため、彼女は彼の看病をすべく足繁く病院に通うようになります。
雨降って地固まる、それを機に距離がぐっと縮まり、正月というのに彼女は実家にも帰らずに看病にやって来ます。
正月で人が少ない中、病院の庭に出て散歩をする二人。五代くんは松葉杖をつき、響子さんがすぐ右に立ち、彼を支えます。
歩きながら、実家に帰らないことに触れ、そこまで責任を感じられるとかえって、などと言う五代くんに、響子さん。
どうせ都内ですからいつでも帰れますし、それに…
7巻「PART♥7 愛の骨格」157ページより
こうしてる方が 私……
と言うと、五代くんは「え…」となり、彼女の方に向こうとすると、松葉杖を落とし…そんな彼を支えようとする響子さんと抱き合う格好になり……
あ…
あぶないわ………
7巻「PART♥7 愛の骨格」157ページより
……言い、二人は唇を近づけ……たのですが、ここでやっぱり邪魔が入ります。
救急車のサイレンが鳴るのですね。その救急車に乗っていたのは……という。
考察
今回のシーンの前提としては、直前の大喧嘩とそれに伴う事故によって、二人の間の積もった不満や嫉妬をいったんお互いにぶつけることができました。
この喧嘩をした後に関係が一歩二歩進む、という流れは「『めぞん一刻』あるある」で、こちらもその類型に入ります。
「ばっきゃろー」だけですと、五代くんのみの感情の発露に見えますけど、響子さんの、五代のこずえちゃんとの関係や、手編みセーターへの嫉妬。この感情の発露があったことで、彼のセリフが生まれていますので、これはお互いの感情のぶつけ合いです。
お互いがお互いに発露したことで、その代償が生まれました。彼には骨折と入院、彼女にはそんな彼を看る「責任」が発生しました。
その責任はネガティブなことではなくポジティブなことです。
つまり、自分のせいで彼が骨折をし入院をしたのだから、という彼に尽くすための「大義名分」ができた」のです。
五代くんは骨折をしてその骨組みを痛めましたが、響子さんが彼を「支える」ことで、物理的にも心理的にも二人の愛の骨格が形作られた、あるいはそれが強まった、ということになります。
正月返上で看病に来た上に、「どうせ都内ですからいつでも帰れますし、それに…『こうしてる方が 私……』」という彼女の言葉は、私だけでなく多くの読者の心をつかんだことでしょう。
「こうしてる方が 私……」に続く言葉は何でしょう。「幸せ」でしょうか。
答えをあえて提示しないところも「もどかしさ」の演出がよく効いています。
そして、一刻館を離れた、病院の庭、しかも正月で人が少ないという静寂がもたらす「非日常」、そこの二人だけというある意味の密室感が、響子さんに「こうしてる方が」と言わせる素地になってもいます。
また、松葉杖が装置として働いています。松葉杖を落とすという事故によって、彼がバランスを崩し、響子に抱きつく・支えられる「必然性」を生まれました。
しかし、そんな感情の盛り上がりが最高潮に到達しようかというタイミングでサイレンの強制的な中断が入ります。
これは二人の関係がこれ以上進ませない、という作者、あるいは編集者の意思の現れで、愛の骨格はできあがっても、愛の完成はまだ先だと引き延ばされ、読者に先の展開への期待を高めています。
一言
つかめそうでつかめない、見えそうで見えない。チラリズム。ラブコメの王道展開ではありますが、本作はその塩梅が完璧です。
本作をお手本に描かれた漫画作品も多いのではないでしょうか。
2位 11巻5話「夢一夜」
2位は五代くんが響子さんの一人旅を追いかけて、追いついた先の場面です。
巻数は11巻、その「PART♥5 夢一夜」になります。
詳細
夏、とあることで、「三鷹瞬」とのことで響子さんと五代くんがすれ違いをし、五代くんから「もう何とも思っていない」と言われた彼女が涙をし、三鷹さんも五代くんも忘れるために一人旅に出ました。
三鷹さんと付き合っている(と思い込んでいる)のに、どうして自分の言葉に涙を流したのかと、三鷹とはどうなっているのかを確かめたくて、追いかけた五代くん。
ニアミスを繰り返しつつ、行き着いた旅館の、男女混浴の露天風呂で再会を果たします。
響子さんのことを考えていたことと、出会えた安堵とで、逆上せた五代くんは響子さんの泊まっていた部屋に連れていかれ、目が覚めると響子さんが眼の前にいました。
追ってきてくれたのかと聞きたいけど聞けない響子さん、追ってきたと言いたいのに言えない五代くん。
深夜、部屋で静かな時間が流れます。旅先は能登でしょうか、部屋の窓から見える日本海を二人で眺めながら。
ふと指と指が触れ合ってしまい、それを謝る五代くん、「あやまることないのに……」と思う響子さん。
夜風に当たってくしゃみをする響子さん。五代くんが丹前を持ってきて彼女の肩にかけると同時に、「あの…よかったら一緒に…明日も…」と誘うと。
響子さんは「はい…」と答えます。
思いがけずOKをもらえた、五代くん。「管理人さん…」と言いながら、両肩にしっかりと手を置いて、顔を近づけています。
つまりキスをしようとするのですが……という話の流れでした。
考察
このシーンに心がときめくのは、舞台が一刻館ではない、旅先という非日常での出来事だから、ということは大きいと思います。
私の心がときめく意味でもそうですけど、管理人さんが、五代くんとの距離をもう一度縮める意味でも、日常から離れていたことで、解放されたでしょう。
特に重要なことは「惣一郎さん」という「呪縛」から解放されている点です。
一刻館にいてはこの場面は生まれなかったでしょう。惣一郎さん(犬も亡夫も)の影がどうしても強くあるから、という意味です。
住人に邪魔される確率も一刻館にいるよりぐっと下がるでしょうし。本編でも結局は彼らに邪魔されたのですけど、一刻館にいたままでは、あのやり取りにさえたどり着けなかった可能性が高いです。
そして、彼女が旅に出たことで、いまいち積極性に欠ける五代くんが、「追いかける」行動を促す効果も生まれました。
帰りを待っていたら、本当に取り返しがつかないことになる、一刻も早く三鷹とのこと、涙の理由を確かめる必要に駆られたのでしょう。響子さんとの愛へ突き進む覚悟ができやすかった可能性です。
また、昭和の恋愛らしいところと言いますと、指と指しか触れていないことです(1巻2話で響子さんの胸を触るセクハラをした人とは思えないほどの奥ゆかしさ!)
露骨なスキンシップが描かれない分、そのわずかな触れ合い、仕草から伝わる緊張感が、胸キュンのポイントとなっています。
指と指の触れ合いという不意の出来事が、「あやまることないのに…」というモノローグを生みました。
読者はそのモノローグで、響子さんが五代くんを受け入れていることを、五代くん本人より先に理解できている。この描き方も作者・高橋留美子さんの企みが成功しているポイントでしょうし、胸キュンポイントになります。
そして、それがその後の五代くんが彼女に丹前を掛ける動作につながりましたし、その後の「よかったら一緒に…明日も…」のセリフと、その答えとして「はい…」にもつながっています。
五代くんとしてもここは大きな勇気が要ったことでしょう。
丹前を掛ける動作によって、触れるだけで反応をしていた二人の、物理的な距離感を一気に縮める効果をもたらしました。
旅を続けることに「はい」と答えたことは、単に北陸旅行を続ける意味だけでなく、二人で紡ぐ愛の行程を続けることへの肯定の意味にもなりました。
どうしてかと言いますと、本来、これは五代くん(と三鷹さん)を忘れるための旅だったからです。
三鷹さんとではなく、五代くんとの旅を続ける意思表示と受け取ることができます。
感情が理性を超えた瞬間でもあるでしょう。それは旅という非日常の成せる業かもしれません。
そして、キスをする寸前で邪魔が入る流れは、ラブコメの王道展開ですが、これこそが「じれったさ」を生んでいますし、ラブコメの美学でもあるでしょう。
一言
このキス未遂が、「物語の先を知りたい!」という読者の期待の高まりにつながり、私にとってもまさに「夢一夜」のエピソードとなり、心に深く刻まれることになりました。
1位 11巻11話「弱虫」
1位は「弱虫」と「八神いぶき」が響子さんに言う場面です。
巻数は11巻、その「PART♥11 弱虫」になります。
詳細
場面は、冬、雪が降っています。
作品のメインの舞台である「一刻館」の前にある坂道です。「時計坂」ですか。
(ふう~ん、それじゃ… だんなさんと同じくらい 五代先生のこと 好きなわけ。
やっぱりこの前言いすぎたかな。
気にしてたら後味悪いな。元気づけてやろうか)弱虫。
11巻「PART♥11 弱虫」224~226ページより
弱虫。
括弧内はモノローグで、弱虫の連呼のみ声に出しています。
モノローグと声の区別をつけるために、私の判断で()をつけましたが、実際に()はありません。
八神が恋敵である響子さんにエールを贈る場面です。弱虫は基本的には悪口ですけど、この場合はエールと捉えていいと思います。
元気づけてやろうかと思っているクセに、響子さんを眼の前にするとライバル心が燃え上がるのでしょうか、素直になれず、代わりに「弱虫!!」と2回、すれ違いざまに言うのですね。
セリフだけを抜き出すと先ほど引用した「弱虫。」とだけ書かれているのですが、吹き出しは尖っていますし、厳しい顔をしているので「エクスクラメーションマーク(!)」が一つか二つ付けられる語調と判断されます。
その直前のシーンに、八神と彼女の担任(響子さんの恩師でもあります)の先生とで、響子さんがいかに生真面目で融通が利かないか、響子さんがどれほど亡き夫「惣一郎」(同高校の地学の非常勤講師)を好きだったか、ということが語られます。
だからもし誰かを新しく好きになったら、
11巻「PART♥11 弱虫」223ページより
だんなさんへの思いはウソだったってことになる……
引用部のように先生は言いました。
八神はその言葉と聞いて、そして響子さんの五代くんへのこれまでの言動を鑑みて、「だんなさんと同じくらい 五代先生のこと 好きなわけ」と思うのですね。
しかし、それほど好きだった旦那さんと同等かそれ以上に五代くんのことを好きなのだ、と八神はこのとき初めて知りました。
恋の重みが違う、みたいことを感じたかもしれません。
八神は、響子さんが惣一郎さんの関係、つまり学生でありながら先生を、女性側から好きになって、交際・結婚をしたことを知っています。
響子さんは学校の先輩というだけでなく、自分と似ている境遇の、しかもそれを成就させた人生の先輩でもあります。
そして、ここが大事なのですが、五代くんが自分の方を向いていないことも、響子さんの方を向いていることにも、八神は気づいています。
だからこそエールなんて送りたくないのですよね。
そんな彼女のいじらしさが胸にきます。
「弱虫!!」と言われた響子さんはどのように返したか。
「…… ……」と無言でした。
考察
このシーンの感動は、響子さんへの、八神のライバル心と共感とリスペクトが、ない交ぜになっているところにあるでしょう。
「弱虫」は、これまでの響子さんの言動から、それと先生の言葉から、彼女の五代くんへの愛情は「本物」である、と八神が認めたことを意味するセリフと言えます。単なる嫉妬だけで出てきたセリフではなく、リスペクトもしっかりと感じられます。
でありながら、素直になれないいじらしさやプライドからは、昭和でありながら、平成後期によく扱われた属性「ツンデレ」要素も見られるようで、当時としては先進的な感覚でありキャラクターです。
彼女の五代くんへの愛情は「本物」であると八神が思い至った背景には、担任の言葉「だんなさんへの思いはウソだったってことになる」の言葉が強く影響しています。
響子さんの想いの強さと深さを知ってしまったとき、それでも八神は「愛は過去を否定しない」という本作『めぞん一刻』の核となるテーマ、真理を悟ったことになります。
八神が悟ったのと同時に、それは私たち読者も悟ることができるように、作者・高橋留美子さんが仕掛けてもいます。
そして、響子さんの「覚悟」の程を知ったからこそ、八神は彼女の苦痛も知り得ました。
その上での「弱虫」の言葉ですから、そこには八神の、響子さんへの共感と「幸せになっていいんだ」というエールも見ることができ、私の胸を打ちました。
場面は雪が降る冬の情景です。
八神の「弱虫」発言を受けた響子さんの無言の反応は、この場面の情緒的な深みを与えています。
雪から、張り詰めたものを思わせますし、空気の張り詰めた様子や雪の色から、二人の間のわだかまりが浄化される気配も漂います。
響子さんが何も言い返さなかったのは、八神の言葉が図星であったことの証明でもあります。
八神の優しさにも気づいていたことでしょう。
でも何も言い返さなかったのは、同じ人を好きであるライバルから言葉だからこそでしょう。つまり、ある意味で八神が恋に敗れたことを意味しているので、恋のライバルとして敬意を示し、無言を貫いた、と受け止めることができます。
このシーンは、「ライバルの存在が主人公を次のステージへ押し上げる」という漫画でよく見られる構造を、美しく、そして切なく描いた名シーンだと言えるでしょう。
一言
とても好きなのですよ、このシーン。
初読時は子どもだったので、意味と良さに気づけませんでしたが、大人になって気づきました。
まとめ
まとめます。
1位の「弱虫」からは八神というライバルの優しさと、昭和のツンデレに対して。
2位の「明日も…」からは旅先という非日常と、抑制された愛からの物理的な意味での脱却の一歩に対して。
3位の「愛の骨格」からは喧嘩と事故がもたらした、愛の急接近の必然性に対して。
4位「キッスのある情景」からは響子さんの意図的な「事故のキス」に対して。
5位「なんでもありません」からは凶悪なニブさによって露呈した、愛の純粋は秘匿に対して。
それぞれ胸がときめいた、ということになるでしょうか。
たまたまですけど、嫉妬や、他人秘密にすること、告白が未遂に終わること、他者から承認されることといった、恋愛が成就するまでの様々なフェーズを網羅できているようです。
これらに共通することは、インターネットやスマホが存在しない、昭和だからこそ成立する「じれったさ」の美学があり、だからこそ、行動や言葉の一つひとつに「キュン」を含まれている、ということなのだろうと思います。
最後までこの記事をご覧くださってありがとうございます。あなたにとって『めぞん一刻』の胸キュンシーンは何ですか? これを機会にあなたのTOP5を考えてみるのも面白いかもしれません。
本文に書いたことは私の個人的な意見や解釈でしかありません。決して情報を鵜呑みになさらず、参考程度に抑えて受け取ってくださると幸いです。
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