昭和の時代に連載されていた『めぞん一刻』は現代でも愛される名作と思います。
しかし今読んでみますと、メインキャラクター「音無響子」の言葉遣いが、現代の若者からは普段、なかなか聞かれないものが多くあります。
今回、響子さんの言葉遣いに着目して、昭和の「女性らしさ」を、時代背景とともに考察していきます。
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音無響子の言葉遣い
| 作品名 | めぞん一刻 |
| 作者 | 高橋留美子 |
| 単行本1巻と最終巻発行日 | 1982年5月1日、1987年7月1日 |
| ジャンル | 青年、恋愛、ラブコメ |
| 発行社 | 小学館 |
| レーベル | ビッグコミックス |
| 巻数 | 全15巻(単行本) |
高橋留美子さんによる昭和のラブコメを代表する『めぞん一刻』。
現代でもラブコメの代表作のひとつに数えられても何らおかしくない時代を越えた名作と思います。
今回は冒頭でも書きましたように、ヒロイン「音無響子」の「言葉遣い」に関して触れていきます。
21世紀も既に四半世紀がすぎている現在から40年ほども前、1980年代に連載されていた本作ですので、言葉遣いだけを取ってみても現代とはだいぶ違っていることでしょう。
とりわけその違いが顕著なキャラが響子さんであると個人的に思えるので、今回、彼女に注目してみました。
響子さんの年齢
単行本1巻がリリースされたのは1982年5月1日、元号に直しますと昭和57年です。
1巻4話冒頭で「昭和56年1月9日」とありますので、1巻3話までは昭和55年、西暦1980年だったとわかります。
つまり、『めぞん一刻』は作品世界と現実とがイコールとして描かれている作品と受け取ってよさそうです。
2巻「PART♥11 マフ等、あげます」(218ページ)で、五代くんが(1浪した大学1年生)20歳のときに響子さんは年齢が22歳と言っています。
響子さんは1話の段階、1980年で20歳か21歳ほどと思われます。
連載が87年に終わっていますから、連載終了時は27~28歳だったのでしょう。
響子さんの言葉遣いの実例
響子さんの発言の中で今日、日常的には用いられなくなった、と私が感じているものをトップ10方式で挙げてみます。
あくまでも日常では用いられなくなった言葉です。
仕事や、結婚式などのフォーマルな場では今でも用いられているとしても、日常には用いられていないということですね。
1. なすって
例えば単行本1巻「PART♥1 隣はなにを…!?」12ページには下記のようなセリフがあります。

いえ、それより
1巻「PART♥1 隣はなにを…!?」12ページより
お勉強なすってください。
響子さんが「一刻館」の新管理人に就いた翌日、本格的に仕事を始めた朝のこと。
2階の窓から「五代裕作」が「なんかお手伝いしましょうか?」と聞いてきた返事が引用部です。
同巻16ページでもう一度「お勉強なすってください」と言っていますから、印刷ミスではないでしょう。
「なすってください」は現代ですと「なさってください」になりそうです。
それより「いえ、それよりお勉強をしてください」や「いえ、それより勉強してください」などが自然でしょうか。
「なすって」と言いますと、時代劇で町人や商人と思いますけど、「ごめんなすって」とか「おひけえなすって(お控えなすって)」とか、そういうセリフを耳にしますから、そちらをイメージします。
2. あら
1巻「PART♥7 春のワサビ」には、感嘆表現としての「あら」が登場します。
あら 惣一郎さんどこ行くの。
1巻「PART♥7 春のワサビ」133ページより
惣一郎さんは亡き夫の名前でもありますが、引用部は飼い犬の名前です。
朝、五代くんが珍しく早起きをしたところ、響子さんが普段どおり惣一郎さんの散歩をするところで、彼はお供を申し出て2人+一匹で散歩をしている場面です。
躾けを何も教えていない(1巻25ページ)惣一郎さんがリードごと彼女を引っ張って、草むらに入っていきました。
そんな惣一郎さんに、響子さんが語りかけているのが引用部です。
2巻「PART♥3 ソルティー・ドッグ」44、54ページなどでも確認できました。
あらいやだ、
2巻「PART♥8 キャンパス・ドール」152ページより
本当に若いんですよ!!
派生バージョンとでも言いましょうか。
「あらいやだ」もあります。
五代くんの友人「坂本」くんに「そこらへんの女子学生より若く見えますよ。」と言われたことを受けての「あらいやだ」です。
3. 出てらっしゃい
一つ上と同じページに「出てらっしゃい」という動詞も登場しました。
出てらっしゃい。
1巻「PART♥7 春のワサビ」133ページより
藪に頭を突っ込んだ惣一郎さんに対して、出てきなさいと言っています。
4. わ・わよ
1巻ばかりだと最初期だけの可能性があるのでは、と思われるかもしれませんので、全15巻の中間付近、8巻でも見てみましょう。
わかったわよ、なんとかする。
8巻「PART♥2 スーツでおつかい」27ページより
響子さんの実家の母「千草律子」が風邪を引いたので、電話で家のことを頼まれた響子さんが風邪を疑っていたのですけど、本当に体調がよくなさそうなので受け入れた場面です。
やだわ、もおっ。
5巻「PART♥8 一刻館の昼と夜」174ページより
とある事情から高校時代の制服を着てみた響子さんに、五代くんが「管理人さん…かわいい……」と言ったことに対するセリフです。
頬を赤らめ、両手を両頬に当てながら言っています。
5. ~のね
一つ上の項目と同じページに「~のね」という言葉も出てきました。
本当に二、三日でいいのね。
8巻「PART♥2 スーツでおつかい」27ページより
実家に帰って家事をすることになった響子さん、一刻館の管理人としての仕事があるので、2,3日なら手伝えると言っています。
6. かしら
「~かしら」です。
罠じゃないかしら。
8巻「PART♥2 スーツでおつかい」27ページより
1つ上、2つ上の引用部と同じページです。
律子さんは今までも、嘘をついては「一刻館」の管理人を辞めさせようとしています。母親の今までの行いの悪さから、今回も罠じゃないかと疑っているのが引用部。
7. まあ
感嘆の「まあ」です。
まあ 惣一郎さん、すっかり三鷹さんになついちゃって.
2巻「PART♥3 ソルティー・ドッグ」46ページより
三鷹さんの自動車で、響子さんと五代くん、響子さんの義理の姉の娘「郁子」ちゃん、一刻館1号室の住人「一の瀬」さんの息子「賢太郎」くんとで、海水浴に行った回です。
三鷹さんは犬が苦手です。ですが惣一郎さんは彼になついていて、その様子を見た響子さんが発したセリフが引用部です。
それを聞いた三鷹さんは全身が「ぞわ~~」っとなっています。
8 ええ
同意を意味する「ええ」もそうでしょう。
え… ええ
15巻「PART♥9 桜の下で」175ページより
ごめんなさい。
私の中で神回との呼び声の高い、最終話前「桜の下で」の響子さんのセリフです。
(最終話はエピローグなので、この桜の下でが実質最終回でしょうか)
ここで五代くんが初めて、前夫・惣一郎さんの顔を結婚写真で見て「やさしそうな人ですね。」と発言したことを受けての引用部のセリフになります。
「ええ」と同意しつつも謝っています。
謝っている理由は、結婚が決まっているにもかかわらず、前夫へのケジメをつけられずにいたこと、です。それを新たに夫となる五代くんに謝っているのですね。
ちなみに当の五代くんは「あやまることないのに……」と思っています(同ページより)。
引用部の「ええ」も現在、仕事や目上の方との会話なら使うとしても、対等な相手との日常会話では使われないでしょう。
9 ほら みなさい
「ほら みなさい」もありました。
ほら みなさい。
2巻「PART♥10 影を背負いて」202ページより
カゼひいた。
「だから言ったのに」のような意味合いです。
響子さんは、五代くんの自身への気持ちを知っているのに、ガールフレンドのこずえちゃんと会うことに否定せず、逆にもっと堂々としないと駄目だと発破をかけました。
五代くんは、人の気持ちを知っているクセにそういうことを言うのか、と拗ねてしまいます。
デート帰りに、ちょうど響子さんと一緒になり、雨が降って来たものですから響子さんは傘に入るよう促すのですが、拗ねている五代くんは意固地になって入らず。
でも雨が激しいものだから、やっぱり入らせてもらった。そんなときの響子さんのセリフです。
自分の胸に聞いてごらんなさい。
4巻「PART♥1 あれがいい」13ページより
意味としてはだいぶ異なりますが、「ごらんなさい」もあります。
同じ「なさい」ですけど、「ほら、みなさい」の場合は「目で確認する」ことを求める強い指摘・非難の意味合いになっていて、「ごらんなさい」の場合は「心の中で試みる」ことを促す丁寧な依頼・助言となるでしょうか。
しかし引用部の場合には、文脈的に「指摘・非難」のようです。
10 はあ
「はあ」もあります。
五「そんなこと言うもんじゃないよ。」
3巻「PART♥7 納得しました」137ページより
朱「かまわないよね。本当のことだもん。」
響「はあ。」
同調の意味でも、返答に困ったり否定したりの場合にも、いずれにも用いられます。
同調の場合も、かしこまった言い方になるでしょうか。
会話や文章の流れ・文脈で肯定か否定のどちらかを判断することになります。
先ほど挙げました「罠じゃないかしら」と「かしら」の言葉を発している、8巻「PART♥2 スーツでおつかい」27ページの、当該コマの一つ前にも「はあ。」と言っていることを確認できます。
11 ふんっ
「ふんっ」。
ふんっ、なによ
3巻「PART♥11 怒りのウィドウ」220ページより
五代さんなんてっ。
引用は不満や不信、軽蔑の意味の「ふん」ですね。
投げやりだったり軽く受け流す態度を示す言葉でもあります。
似た言葉ですと、「ふーん」もあります。こちらは感心や同意の言葉で、現代もよく使われます。
12 ほほほ
笑い声です。
ほほほ
8巻「PART♥5 一緒に住もうね」99ページより
一刻館に引っ越してきた新たな住人「二階堂望」から、「住んでる人達も面白そうだし………」と言われたときのコマです。
基本的に「ほほほ」は上品に笑っている様子を表すと思いますけど、こちらは誤魔化しのニュアンスがある場面です。
常に使っている訳ではない
響子さんも、常に上記のような言葉遣いをしている訳ではありません。
というより結構言葉が汚い人でもあります。

なによ、あの色ガキ!!
2巻「PART♥6 桃色電話」112ページより
理性的なときは女言葉が多く、感情的になると少なくなる・なくなる、と使い分けていると察しがつきます。
読者がそれとわかるように描いている、高橋留美子さんの巧みさでもあるのでしょう。
画像の場面は、管理人室の電話に、五代くん宛に女性からひっきりなしにかかってくることに苛立った管理人さん。
彼の前にではにこやかにしていたのですが、彼が部屋を退出するや、(編み物をしていました)毛糸玉をドアに投げつけながら「なによ、あの色ガキ!!」と暴言を吐いています。これは本作でも屈指の汚い言葉です。
物語のその後を見ても、これほど汚い言動は見られません。
彼女の性格の屈折ぶりも現れているようですし、時代的なものも見えるようですし、留美子先生がまだ音無響子のキャラ設定を固めきれていない感覚も受ける、興味深いコマになっています。

他の人はどうか?
他の女性はどうでしょう。
わかりやす人物でいうと、「八神いぶき」がいるでしょうか。
9巻「PART♥3 VS.乙女」より登場する女子高校生で、主要な登場人物の中で最も若い部類です。
彼女も同エピソードの61ページに、モノローグで「恋人が死んだんだわ」「それで先生 どこか かげりがあるのね」と、上にご紹介した言葉遣いを用いています。
11巻「PART♥6 秋の罠」108ページのモノローグで「今頃 どうしてらっしゃるかしら…」、同「PART♥7 チャート式恋愛」127ページでは女友達に「そーゆー お下劣な言い方やめてちょうだい」と、やはり使っているのですね。
一方で砕けた表現も多くあります。
8巻「PART7 パジャマとネグリジェ」では、モノローグで「とにかく終電まで時間かせいで…… 絶対泊まりこんでやる」。
11巻「PART♥11 弱虫」では「嫌いだな、そういう思い込み」「要するに勇気がないんじゃない」と言っており、担任教師に対して敬語すら使わない場面も。
このことは、単に八神が大人になっていないからなのか、あるいは時代的にそういう言葉遣いが使われなくなっていることを作者が意識的・無意識的に察知しているのか、それはわかりません。
なぜ、この言葉遣いは「消えた」のか?
挙げた言葉から、昭和に使われていた言葉が、令和に入って使われなくなった、時代的な変化を考えられそうに思います。
女言葉
挙げた言葉のうち多くは、いわゆる「女言葉」と分類される言葉遣いでしょう。
女言葉は現代の若い女性は使わなくなっているのでしょう。
上に挙げた言葉遣いの多くは物語の序盤から拾ってきたものですけど、1巻から最終15巻まで満遍なく用いられていることを確認できます。
そして、響子さんだけでなく、八神(上述)も、「七尾こずえ」も15巻9ページなどで、「六本木朱美」も15巻50ページや150ページなどで発しています。
朱美さんはメインと鳴る登場人物の中でも言葉遣いが最も粗い人の一人ですけど、彼女でも場所によっては使っていることは興味深いことでした。
つまり昭和の時代には、女性は当たり前に用いていたのでしょう。
令和のジェンダー感
この女言葉が、現代の若い女性たちの普段遣いとして聞かれなくなった理由。
その一番は昭和と令和の「ジェンダー感」の変化があるのではないか、と個人的には思っています。
昭和の時代には「良し」とされてきた、「女性らしさ」が現代では当時より強く求められなくなっているように思います。端的に男女平等の意識が進んだのでしょう。
その影響が、女性の丁寧で控えめな言葉遣いにも及んでいるのでは、ということです。
ジェンダーレス化に関しては以前も当サイトでご紹介しました。下にリンクを貼った記事がそれ。あわせてご覧になってください。
カジュアル化
言葉の「カジュアル化」もあるかもしれません。
テレビやネット・SNSの普及によって、言葉全体が簡略化されていき、それとともに女言葉が廃れていった可能性です。
ただ、私の生活実感では、1990年代には既にカジュアル化は進んでいたように思います。
私の小中高大学時代のクラスメイトや友人、恋人たちが女言葉を使っていた記憶がないので。
個人的に、『めぞん一刻』を描く上で高橋留美子さんが参考にしたと思っている、ドラマ『雑居時代』の出演者の女性たちは皆、当たり前に女言葉を使っています。
「大原麗子」さんのようなヒロインはもちろん、大原さんの歳の離れた小学生の妹を演じた「杉田かおる」さんも、です。
雑居時代の放送は1973年から1974年でした。
となると、90年代と70年代の間、まさに『めぞん一刻』が連載されていた1980年代に、カジュアル化の大きな分かれ目があるかもしれません。
ウーマンリブとフラワームーブメント
80年代の日本で大きな例えば、「男女雇用機会均等法」は、1985年に制定、翌1986年4月1日から施行されました。
もっと前のことで言いますと、1960年代後半から1970年代にかけて、アメリカから始まりヨーロッパへと広がっていった大きなムーブメント「ウーマンリブ」も、そのきっかけにあるかもしれません。
女性の権利獲得と解放を目指す社会運動のことですね。
同時代の、ヒッピーで有名な「フラワームーブメント」もそうでしょう。フラワームーブメントと深い関係の存在と言えば、ビートルズの登場と世界的な活躍もあるでしょう。
そのような欧米の動きが大きなうねりとなって日本に本格的に影響を及ぼしたのが80年代、なのかもしれないです。
この辺りにきっかけを見出せそうではあります。専門家ではないので根拠も何もありません。
女言葉だからこその魅力
現代の若者からすれば、女言葉は古臭い言葉遣いに見えるかもしれません。
しかし、この古臭さこそが、作品の味わいになっているように思います。
とりわけ響子さんに関しては、普段の落ち着いた女言葉があるからこそ、「色ガキ」のような激しい言葉も対比が効いて活きているように、私には思えるからです。
彼女は単におしとやかな人ではなく、内に激情を秘めている、ということも、言葉遣いの対比からよりよくわかります。
その内に秘めた想いが、彼女の亡き夫「惣一郎」さんへの愛も強く激しいものだと想像できますし、「五代裕作」への想いも惣一郎への想いに負けず劣らずだろうと想像しやすくなっています。
まとめ
まとめます。
『めぞん一刻』のヒロイン「音無響子」の言葉遣いは、令和の現代では使われなくなっているように思える。
そのほとんどが「女言葉」で、使われなくなった理由にはジェンダー感の変化と言葉のカジュアル化がありそうで、さらにその原因にはウーマンリブやフラワームーブメントなどがあるのでは、と個人的には考えている。
女言葉はもはや古臭い言葉になったが、女言葉だからこそ、読者は響子さんの裏表をよりわかりやすく読み取れる。彼女の惣一郎さんや五代くんへの熱情も伝わりやすく、彼女をより魅力的に見せている。
というのが、私なりの解釈と感想でした。
本文に書いたことは私なりの意見や解釈でしかありません。決して情報を鵜呑みになさらず、参考程度に抑えて受け取ってくださると幸いです。
ということで、今回はここまでになります。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
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